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9月22日:え!こんな実験は許されるの?LPS投与により活性化されたヒト脳内のミクログリアをPETで可視化する。(米国アカデミー紀要掲載論文)

2015年9月24日
動物実験でうまくいっていても、人間ではうまくいかないことは多い。逆に動物実験で何も起こらなくとも、人間になると大きな問題になることもある。従って、人体実験に進んでいいかどうかは、インフォームドコンセントをとればいいというものではなく、まず人体にほとんど害がないという状況で進める必要がある。私は倫理的な手続きが整っており、また研究者自身がその問題を十分認識している場合は、人体実験も可能だと思う方だが、今日紹介するエール大学からの論文を読んで、ここまでやっていいのか深く考えてしまった。タイトルは「Imaging robust microglial activation after lipopolysaccharide administration in human with PET (リポポリサッカライド注入にによるミクログリアの強い活性化をイメージングする)」だ。ミクログリアは脳内のマクロファージとも言える細胞で、脳内の炎症や変性細胞の処理に重要な役割を演じている。裏返せば、ミクログリアが活性化していることは、脳内に炎症や変性が起こっていることを示唆することから、脳内のミクログリアの活性化状態をモニターすることは、多発性硬化症やアルツハイマー病の病態診断にとって価値は大きい。ただ、脳内の細胞なので簡単に血液検査で調べるというわけにはいかない。これを克服するために、ミクログリアの状態をアイソトープでラベルしたプローブでモニターする方法の開発が行われてきた。この中で生まれたが炭素11でラベルしたリポPBR28を使う方法で、このプローブはミクログリアが活性化された時ミトコンドリア膜上に誘導される様々な機能を持つトランスポーターTSPOに結合する。すなわち、放射性プローブのミクログリアへの蓄積を指標に活性化状態を定量化できる。これらのことから、PBR28を用いたPET検査への期待は高く、これまでサルを使った実験も含む前臨床研究段階は終了している。臨床研究としては、初期段階のアルツハイマー病でも上昇が見られることも示されていた。私なら炎症再生を繰り返す多発性硬化症や、脳炎などを用いた臨床研究へとすすむと思うが、このグループはなんと、正常ボランティアを募り、大腸菌のLPSを静脈投与して急性のミクログリア活性化を誘導し、炎症誘導前後のPET検査を行っているのだ。結果は予想通りで、LPS投与すると自覚的にも多角的にも炎症症状が誘導され、血中の炎症性サイトカインも上昇する。それと同時に、脳内でのPBR28の取り込みが30−50%上昇するのが観察される。LPSで脳内ミクログリアが活性化されることは知られているので、この方法はミクログリア活性化を知る感度の高い方法になるという結論だ。いくら経過を注意深く観察していると言え、LPS投与が強い炎症を引き起こす、いわば毒であることはわかっている。いくら将来重要な検査へと発展して多くの疾患の早期診断に役立つかもしれないとはいえ、正常人にわざわざ炎症を誘導する処置をしていいのか疑問だ。もちろんインフォームドコンセントをとり、倫理委員会で審議したと書かれているが、臨床例を積み重ねて適用を決めることは間違いなくできたはずだ。アメリカの自由といえばそれでおしまいだが、いくら考えてもどこかで一線を越しているような気がするのは、現役を退いたからだろうか。

  1. 浅間義実 より:

    大腸菌のLPSではなく、パントエア菌のLPSを経口摂取してもミクログリアは活性化すると考えられるでしょうか?
    そうで有るならアルツハイマーや自閉症、ダウン症等今まで改善が難しい疾患に朗報だと思います。

    1. nishikawa より:

      一般的にマイクログリアが活性化すると悪いことの方が多いと考えられます。実験以外で、ミクログリアを活性化する食品を食べたりすることは避けたほうがいいでしょう。

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