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10月1日:スーパーエンハンサーを標的にする白血病治療(Natureオンライン版掲載論文)

2015年10月1日
これまで遺伝子の発現調節過程は、化学化合物による治療の標的として適さないと考えられてきた。というのも、この過程ではタンパク質とDNAやタンパク質同士の相互作用のように、小さな化合物では抑制しきれない反応が中心になっているからだ。ところが最近になって、転写にも化合物が特異的に抑制可能な様々な過程が含まれていることがわかり、転写を標的にする薬剤の開発が進み始めている。今日紹介するハーバード大学からの論文は細胞のアイデンティティーを決定しているスーパーエンハンサーの活性調節に関わるメディエーターと呼ばれる巨大複合体形成過程を標的に白血病を治療できないか調べた研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは、「Mediator kinase inhibition further activate super-enhancer-associated genes in AML(メディエーターリン酸化酵素を阻害すると急性骨髄性白血病で働いているスーパーエンハンサーにより支配される遺伝子発現がさらに更新する)」だ。すでに述べたように、この研究の目的はスーパーエンハンサーを標的にして抗ガン治療が開発できないか調べることだ。そのためにこの研究では、メディエーターと呼ばれる分子複合体の構成成分の一つCDK8に目をつけた。CDK8はサイクリンにより活性化されるリン酸化酵素で、リン酸化を介してメディエーターの活性を調節していると考えられている。研究ではまず、骨髄性白血病(AML)株でCDK8がスーパーエンハンサーの構成成分としてこのAMLで働いていることを染色体沈降法で確認している。次に、CDK8の阻害剤として開発されたCAが期待通りCDK8活性を抑制できるか調べ、CDK8のリン酸化活性に特異的な阻害剤として働くことを生化学的に確認し、この阻害剤が顆粒球系や巨核細胞系の白血病の増殖を抑制することを見出す。この抑制活性は、白血病の異常増殖に関わるドライバー遺伝子を問わないことから、顆粒球系細胞としてのアイデンティティー維持機構を乱すことで効果が見られると結論している。事実、赤血球系の白血病ではこの阻害剤の効果はない。最後に、なぜ細胞のアイデンティティーを決めるスーパーエンハンサー活性を変化させると細胞の増殖が落ちるのか調べるために、スーパーエンハンサーに支配される遺伝子がCDK8阻害によりどう変化するか調べると、予想に反し支配される多くの遺伝子の発現が上昇していることを見出している。その中には転写を介して細胞の増殖を抑制する分子が含まれており、これらの分子だけを過剰発現させてやると細胞増殖が抑制されることから、CDK8阻害により、増殖抑制効果を持つ一群の分子の発現が上昇することが、白血病の増殖が抑制されたのだと結論している。この研究はCDK8がメディエーターの活性をただ亢進させているのではなく、適正なレベルに維持するための調節因子である可能性を示した点で、基礎的にも面白い結果だと思う。最近、転写過程、特にスーパーエンハンサーを標的にした薬剤開発の論文が増えてきたが、詳しく見るとこれだけでガンを根治できるようには思えない。また、作用機序から言っても副作用の覚悟の必要な治療法になるだろう。しかし、ガンに対する手段を拡大するという意味では、急速に創薬が進んでいる実感があり、今後も注目すべき分野だろう。

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