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10月3日:喘息につながる腸内細菌叢(9月30日号Science Translational Medicine掲載論文)

2015年10月3日
5月18日、乳児期の腸内細菌叢の発達を調べたスウェーデンの研究を紹介した(http://aasj.jp/news/watch/3444)。この研究によると、正常分娩で生まれた乳児の腸内細菌叢は、母親の皮膚や口内細菌層の移入により始まり、離乳時期まで徐々に多様性が増大するが、セルロース分解細菌などは離乳食が始まってから増殖することが示された。この過程で育って(?)くる腸内細菌と、アトピーなどの発症を比べた研究も盛んに行なわれ、離乳食が始まるまでの細菌叢の多様性が低いとアトピーの危険性があるなど論文が散見されるようになった。ただ、この分野は始まったばかりで、まだまだデータを集める必要がある。今日紹介するバンクーバー、ブリティッシュコロンビア大学からの論文は3ヶ月齢で腸内細菌叢検査を含むアレルギー検査を行った後3年間追跡して小児喘息の発症を調べたコホート研究で9月30日号のScience Translational Researchに掲載されている。タイトルは「Early infancy microbial and metabolic alterations affect risk of childhood asthema(乳児期早期の腸内細菌叢と代謝の変化が小児喘息のリスクに影響する)」だ。この研究ではカナダで大規模に行われている新生児のコホート研究参加者の中から319人のボランティアを募り、3ヶ月齢、1年齢の便腸内細菌検査、及び1年目のアレルゲン反応テスト、及び喘鳴の有無などを調べるアレルギーテストを組み合わせ、3年目で小児喘息の発症を調べている。これまでの研究から1歳でのアレルギー検査陽性で喘鳴の経験のある子供の77%が学童期までに喘息を発症することが知られており、このハイリスクグループと正常群を比較している。3歳齢での喘息発症を調べているなら、数は少なくとも実際の発症例のデータも示せたのではと少し残念に思った。さて結果だが、これまでの研究とは少し違って、喘息ハイリスクグループの腸内細菌叢が特に多様性が低いという結果にはならなかったようだ。ただ、定量的PCRで特定の細菌の量を調べると、3ヶ月齢のハイリスクグループで有意な低下が見られる4種類の細菌を特定することに成功している。この減少により腸内で様々な代謝経路が変化すると考えられるが、この研究ではリポポリサッカライドの合成経路が変化して免疫系をアレルギーの方向性へと引っ張ると考えているようだ(もちろん完全な証拠はない)。その上で、これらの代謝変化による尿中代謝中間物を調べて、幾つかの大きく変化する代謝中間物を特定している。特に、胆汁の分解物であるウロビリノーゲンの上昇は、腸内細菌叢の状態を調べるための指標として使えるのではと期待させる。最後に、4種類の細菌が減少しているハイリスクグループの便を移植したマウスに、この4種類の細菌を戻すことで宿主の免疫反応を正常化できるかマウスを用いた実験を行っている。実際の実験では、まず大人の無菌マウスに便を移植し、このマウスから生まれた子供が同じ細菌叢を維持していることを確認した上で、新生児期に存在する4種類の細菌の肺の炎症に及ぼす影響を調べている。この結果をそのまま人間に当てはめて良いかは判らないが、この4種類の細菌が新生時期に腸内に存在すると、肺の炎症が著明に抑制できることを示し、確かにこの4種類の細菌が喘息など気道炎症発症を抑制する効果があることを示している。考えてみると、私たちの子供の頃はアトピーも喘息もずっと少なかった。代わりに、寄生虫は誰もが持っていたし、様々な細菌とも共存していたはずだ。それが、現代まで環境はどんどん清潔になってきて感染症などは激減した代わりに、アトピーや喘息の子供が増えた。この意味で、細菌層の研究は極めて重要だ。今日紹介した研究は、喘息になるリスクを細菌層全体ではなく特定の細菌と相関させた点で、将来簡便な検査開発へと発展する可能性がある。また、尿中の代謝中間物がこの4種類の細菌と相関している可能性を示したことも、新しい検査法の開発につながる。今後、この結果をもとに新たなコホート研究が進むだろう。期待したい。

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