AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 10月13日:エチオピアで出土した新石器時代人のゲノム(Scienceオンライン版掲載論文)

10月13日:エチオピアで出土した新石器時代人のゲノム(Scienceオンライン版掲載論文)

2015年10月13日
シリア難民がハンガリーからドイツに向けて歩いているのを見ると、私たちの世代はハンガリー動乱で多くの難民がオーストリアに向けて歩いている写真を思い出し、歴史は繰り返すことを思い知る。そして、中学・高校で習った民族の大移動が、現在も当たり前のように続いていることも実感する。実際、中東からトルコにかけてのルートは古代から民族の移動が盛んに起こっていたようだ。私たち人類の祖先が中東に生まれ、南と北に別れて拡がったことは、現代の各民族の遺伝子を比べることでかなりの程度わかる。ただ、さまざまな時代に生きた古代人のゲノムが解読されると、この精度はさらに上がる。このためネアンデルタール人と交流のあった2−3万年前から現代に至るさまざまな時代の民族の骨に残るゲノムを調べることは歴史学の重要な分野として確立した。しかし、アジア、アフリカから出土した古代人のゲノムの解析はさまざまな理由で大幅に遅れている。今日紹介する英国ケンブリッジ大学とアイルランドダブリンのトリニティーカレッジからの論文はエチオピア南部Mota洞窟で見つかった新石器時代人のゲノムを12回繰り返して読んで解読した研究でSciencオンライン版に掲載された。タイトルは「Ancient Ethiopian genome reveals extensive Eurasian admixture throught the African continent (エチオピア古代人のゲノムはアフリカ全土にわたるユーラシア人との交雑を示す)」だ。現代アフリカ人とヨーロッパ人を比べる時問題になるのが3000年前後に起こったユーラシアからアフリカへの移動による交雑だ。この時の影響を正確に調べるためには、それ以前のアフリカ人のゲノム解析が必要で、この論文で解析されたMota人は古代アフリカ人としては最初のゲノムになる。まず現代のアフリカ人とゲノムを比べると、エチオピアのオモ語をはなす民族に最も近い。オモ語を話す民族は言語学的に他の民族から孤立して来たとする説があるが、今回のゲノム解析はそれを裏付けるようだ。次にユーラシア人の遺伝子流入について調べてみると、現代のサルジニア人、そしてシュトゥットガルトで出土した新石器時代人のゲノムに最も近い。これまでの研究でサルジニア人はヨーロッパ人の中で新石器時代人のゲノムを最も残している民族とされている。西ヨーロッパ新石器人は、現在のトルコ地方から農業とともに移動して来たことがわかっており、今回の研究結果は同じ祖先が遠くアフリカまで拡がっていたことを物語る。サルジニア人から想像できるのは、色の浅黒い茶色い目の民族だが、流入した遺伝子から同じ先祖が移動して来たことが確認できる。さらに他のアフリカ民族のゲノムと比べると、このトルコ由来の新石器人ゲノムはアフリカ全土に拡がっていることも分かった。このことは、ユーラシア人とアフリカ人の交流がこれまで考えられていた以上に起こっていたことになるが、だとするとアフリカ人にネアンデルタール人のゲノムが流入していないのは解せない。もう一度新しい観点で見直すと、確かに0.3−0.7%ぐらいのネアンデルタール人ゲノムがアフリカ人にも見られる。ただ、これまで言われていたように、アフリカ人が直接ネアンデルタール人と交雑したことはないと考えたほうがよさそうだ。一人の古代人のゲノムが、歴史についての理解をこれほど新しくしてくれる。エキサイティングな時代だ。しかしこの研究からわかる民族の移動を、現代の難民の移動と重ね合わせると、移動の背景に何があったのかぜひ知りたい。考古学の出番だ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*