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10月15日:老化とリプログラミング(12月3日発行予定Cell Stem Cell掲載論文)

2015年10月15日
山中iPSは、患者さんのiPSから必要な系列の細胞を誘導し、それを用いて病気のメカニズムを解析し治療法を開発するためのテクノロジーとして期待され、実際成果が上がっている。一方、これまでの研究からiPS誘導により、老化していた体細胞がもう一度若返ることがわかってきた。一見両方の性質はいいとこづくめに思えるが、病気を再現するという面では一つ問題がある。多くの病気の背景には細胞の老化があるが、若返らせると老化による変化が消失して本当の意味での病気の再現は困難になる。この問題をなかなかうまい方法で研究したのが今日紹介するソーク研究所からの論文でCell Stem Cellの12月号に掲載予定だ。この論文はFred Gage研究室からだが、この研究室の仕事にはいつも自由なアイデアと豊富な知識を感じる。タイトルは「Directly reprogrammed human neuron retain aging-associated trascriptomic signture and reveal age-related nucleoplasmic defects (直接リプログラムで誘導したヒト神経細胞は老化による性質を保持しており、老化による核—細胞質間交流の異常を明らかにする)」だ。研究ではまず高齢者の細胞からiPSを誘導し、iPSではそれまで積み重なっていた老化による性質が消失することを確認している。次に、iPSのように多能性細胞へといったん戻すのではなく、高齢者の線維芽細胞から直接神経を誘導した場合、その細胞には老化による性質が保持されるか調べている。これまで報告された直接神経へとリプログラムする方法が高齢者の線維芽細胞にも適用できることを確認した後、その細胞を元の線維芽細胞と比べ、ともに老化により発現することが知られている多くの遺伝子が発現していることを発見した。すなわち、iPSと違って、直接リプログラミングを使うと、その人の年齢を反映した神経細胞を誘導できることになる。このことからiPSは再生医療には有利だが、病気の再現、特に経年変化が関わる病気の再現には不利であることがわかる。面白いのは、高齢者の線維芽細胞から直接誘導した神経細胞は、線維芽細胞とは別の老化遺伝子を多く発現していることだ。すなわち、まず老化による根幹の変化(マスター変化)が存在して、この変化がそれぞれの細胞系列で違う老化遺伝子の発現を調節していることになる。このマスター遺伝子を探すため、線維芽細胞と神経細胞の両方で出ている老化遺伝子を探索し、核と細胞質の交流を調節している核孔に結合するRanBP17分子が年齢とともに低下することを突き止める。この分子の発現を若い細胞で低下させると、様々な老化遺伝子の発現が見られるようになるので、老化に関わるマスター分子の一つである確率が高い。一方、iPSを誘導するとこの異常は消失することも明らかにしている。私も初耳だったが、核孔を形成する分子は新陳代謝が遅く、一度作った分子を長期間使うので老化の影響を受けやすいようだ。したがって、この分子が老化すると、核と細胞質の交流に支障が出て、老化変化が拡大するというシナリオだ。まあこれだけで決まるかどうか、まだまだ研究は必要だが、iPSと直接リプログラムを老化という観点から比べたのは「なるほど」と感心する。今後、老化が関わる神経系の疾患研究には、直接リプログラムの重要性が増すと予想できるが、直接リプログラムは高齢者の再生医療には問題があることがよくわかった。

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