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10月16日:神経芽腫の新しい原因(Natureオンライン版掲載論文)

2015年10月16日
一部の例外を除いて腫瘍には必ずゲノムの変化が存在する。ヒトゲノムが解読され、次世代シークエンサーが医療現場に導入されたおかげでガンゲノム解読が容易になり、ガン研究はこの10年で目覚しい進展を見せた。まさに、新しいテクノロジーが実感できる分野の代表と言えるだろう。しかもまだ発展は続いている。これまでガンゲノム研究の中心はタンパク質へ翻訳されるゲノム領域、エクソームの配列決定だった。これはコストが抑えられるのと、情報処理技術自体の限界によるところが多かった。しかしこの限界が乗り越えられると、ガンゲノム研究は今や全ゲノム配列調べる時代に入った。今日紹介するドイツケルン大学からの論文はこの進歩を実感させる論文でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Telomerase activation by genomic rearrangements in high-risk neuroblastoma (ハイリスク神経芽腫ではゲノムの再構成によるテロメラーゼの活性化が見られる)」だ。神経芽腫は小児の固形腫では最も多い病気で、その多様な経過のため予後を予測するのが難しい病気だ。経過観察だけで自然治癒する患者さんも多いが、それ以外は治療が難しく予後も悪い。したがって、ハイリスクグループとそれ以外を早期に診断し、治療方針を立てることが重要だ。これまでMYCN遺伝子の増幅がある場合は予後が悪いハイリスク群と診断されていたが、これは全体の一部に過ぎず、新しい原因遺伝子を求めてゲノム解析が進められてきた。これまでのエクソーム解析から、ALKの突然変異、ATRX遺伝子の欠損などが発見されたが、ALK突然変異は必ずしもハイリスク群に限局せず、また遺伝子異常が特定できない症例が多く残っていた。この研究の目的は、エクソーム解析では発見できなかったゲノム異常を特定することで、50例あまりの神経芽腫の全ゲノムを解読している。もちろんこの研究でもすでに発見されていたMYCN, ALK, ATRX遺伝子異常が確認されたが、それ以外に2割の神経芽腫でテロメラーゼ遺伝子上流50Kbに様々な遺伝子が転座してきていることを発見した。テロメラーゼはテロメアの長さを維持し、細胞の老化を防止する遺伝子で、これが発現すると細胞は異常増殖を始める。ただ一般の体細胞ではこの遺伝子が発現しないように染色体構造を変化させ強く抑制されている。ところが転座のある患者さんでは平均で90倍近く発現上昇がみられる。この原因を調べると、他のゲノム領域が近くに転座してくることにより、それまで閉ざされていた染色体構造が開き、上流のエンハンサーの影響を受けることで高い発現が可能になっていることがわかった。6月3日このホームページで詳しく説明したが(http://aasj.jp/news/watch/3533)、遺伝子の多くはTADという構造単位を形成し、遠くのエンハンサーの影響から守られている。神経芽腫ではこの発現を抑制する構造が、染色体の転座により破壊され、発現してはいけないテロメラーゼが発現して、腫瘍になるというシナリオだ。一般の方にとって重要なのは、このゲノム異常がこれまで発見されたMYCN増幅、ATRX遺伝子欠損とオーバーラップしないこと、そしてハイリスク群のみに限局する異常である点だ。このことから、それぞれの遺伝子を調べるとほぼ半分の患者さんについて、ハイリスクかどうかが判断できるようになったことになる。もちろん次は、それぞれの変異に合わせた治療法開発が重要だが、このためにも病気を分類できるようになったことの意義は大きい。今後他のガンでも全ゲノム解読が進むだろう。これを診断だけに終わらせずに、根治を目指した治療法開発につなげることが必要だ。国も企業もかなり戦略的に取り組まないと、我が国はガン治療開発の不毛地帯に陥っていくような気がする。

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