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10月23日:医療の南北格差調査(10月21日号The Lancet掲載論文)

2015年10月23日
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高血圧、動脈硬化に起因する心臓発作の再発を防ぐためにWHOはアスピリン、スタチン、βブロッカー、そしてアンジオテンシン変換酵素阻害剤の予防的服用を勧めている。これらの種類の薬剤の中には既に特許切れにより安価なジェネリック薬が利用できるものが存在し、WHOは2025年までには世界の50%の人たちがこれらの薬剤を実際に服用し心臓発作の再発が防げるようにしたいと目標を定めている。この目標を実現するために何が必要かを調査したのが今日紹介する国際チームからの論文で10月21日号のThe Lancetに掲載された。タイトルは「Availability and affordability of cardiovascular disease medicines and their effect on use in high-income, middle-income, and low-income countries:an analysis of the PURE study data. (高所得、中所得、低所得国での心血管疾患薬の使用に及ぼす入手可能性と購入可能性の影響)」だ。この研究では、WHOの目標を実現するためには、まず薬が手に入ること、そしてその薬を服用するお金があること、そして飲む意志があることが重要だと考え、この点について調査している。しかし論文を読むと、表面的に統計を集めるのではなく、実際大変な努力を払って調査を行っていることがわかる。例えば薬が手に入るかについては、それぞれの地域の決まった地点から徒歩で実際に歩いて薬局を探し、その薬局で目的の薬を買うことができるか、また値段はいくらかを調べている。次にその地域の所得を調べて、薬の服用によって家計の何パーセントが圧迫されるかを調べ、最後に一度心臓発作のエピソードを持つ人にインタビューして、どれだけこれらの薬を服用しているか調べている。詳細は省くが、所得が低い国ほど薬自体の入手が難しい(ジェネリック薬生産が盛んなインドは例外で、先進国並みに入手が可能なのは面白い)。さらに、低所得国では現在の価格で4種類の薬を服用しようとすると、インドですら家計の50%が必要になる。一方先進国では1%以下で済む。したがって、WHOの目標を実現するためには、薬剤の価格をさらに低下させ、薬局の数を増やす必要がある。これは簡単ではないだろう。そして最も難しいのが、わかっていても薬を飲む人が少ないことだ。薬が自由に手に入り、経済的負担も大きくない高所得国で調べると、4種類すべての薬を飲んでいる人は20%に満たない。すなわち、3−4種類の薬を飲むこと自体に抵抗がある。したがって、科学的データを示して理解を深め、安心できる合剤などを提供できる体制が必要だろう。先進国ですらWHOの目標実現には様々な壁が存在することがわかる。次は、これをどう解決するのか、WHOからの答えが待たれる。

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