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10月31日:新しいトランスポゾン由来タンパク質(10月22日号Cell掲載論文)

2015年10月31日
昨日、病気の発症メカニズムを研究するためにiPSが重要な手段になっていることを、双極性障害という一見iPSからかけ離れて見える精神疾患を例に紹介した。我が国でも山中さんを筆頭に、このような臨床応用がiPSの最も重要な分野であるとして、重点的な助成が行われている。しかし基礎科学としてみても、iPSの拡がりは予想を超える。例えばエピジェネティックスはESやiPSが利用できるようになり急速に進展した。ここでも紹介したゲノムのトポロジーや、スーパーエンハンサーなど、新しい遺伝子転写調節についての方法論や概念の形成にもES,iPSの貢献は大きい。これは、iPSにより、特定の分化段階のヒトやマウスの正常細胞を必要なだけ使って全ゲノムレベルの解析を行えるようになったからだ。他にも全く新しい有望分野を開発すべく活躍しているのがソーク研究所のGageグループだ。彼らはゲノム以外は細胞や組織レベルの実験に多くの制限のある猿からヒトへの進化の研究を、iPSを組み入れることで乗り越えられないかと挑戦を続けてきた。iPSが発表されるとすぐ、世界に先駆けて様々な霊長類のiPSを樹立し、ヒトと比べる研究を行っている。今日紹介する論文はその中から出てきた新しい発見について述べたもので10月22日号Cellに掲載された。タイトルは「Primate-specific ORF0 contribute to retrotransposon-mediated diversity (霊長類由来のORF0はレトロトランスポゾンによる多様性に貢献している)」だ。私たちのゲノムの半分がトランスポゾンと呼ばれるウイルスのような配列で占められているが、その中でL1と呼ばれるトランスポゾンはなんとゲノム全体の20-30%にのぼる。体を形作るタンパク質をコードする遺伝子が1.5%程度であることを考えると驚くべき数字だ。L1にはトランスポゾンの活性化に関わる2つのタンパク質をコードするORF1,ORF2と呼ばれる遺伝子が存在している。ただ30%ものゲノムが活性化されゲノムの他の場所に飛び込むことになれば私たちは生きていられるはずがない。幸いほとんどのL1には突然変異が入って不活性になっており、実際に活動できるのは100以下なので安心してほしい。この研究では、霊長類のL1遺伝子中にORF1,2とは別の転写、翻訳できる配列( ORF)が存在していることを発見しORF0と名付けている。もちろんORFが存在することと、実際のタンパクに翻訳されることとは全く別のことなので、この研究の大半は、このORF0がタンパク質として翻訳されていることを示すことに費やされている。詳細は省くが、チンパンジーやヒトには約3500の翻訳可能なORF0が存在し、作られたタンパク質は核内でPMLボディーと呼ばれる特殊な場所に存在していることを明らかにした。面白いのは、このORF0を持つL1は霊長類で急速に増幅・多様化したことで、霊長類以外の哺乳類には見られない。また、旧世界サルの代表ヒヒには50個程度のORF0しかない。さらに、ヒトとチンパンジーでも900のORF0はそれぞれの種特異的な場所に散らばっている。またORF0は多能性幹細胞(iPS)で発現が上昇しており、遺伝子内のスプライシングのシグナルを使って近くの遺伝子と融合タンパク質を形成していることも明らかになった。すなわち、全く新しい機能を持ったタンパク質が生まれる原動力になっている可能性がある。最後に、この遺伝子を大量に発現させると、L1活性化が高まることから、この分子の役割はL1活性化を促進して、霊長類のゲノム進化を促進することだと結論している。基本的には現象論だけだが、霊長類にしか存在しないこと、新しい融合タンパク質を形成できること、そしてL1活性化を促進すること、を知ると霊長類進化に確かに大きな役割を演じているのではと思えてしまう。次の一手が楽しみな論文だ。昨日紹介した中国の論文にもGageの名前は入っていたが、彼のグループの活躍が目立つ。

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