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11月2日:抗原受容体遺伝子再構成研究の進展(Cellオンライン版掲載論文)

2015年11月2日
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今日紹介するハーバード大学からの論文の内容はかなりプロ向きであると最初から断っておく。ただこの論文で研究しているRAG分子は私自身にとって思い出の深い分子で、久しぶりにこの論文の責任著者Fred Altの論文を読んで、改めてここまで研究が進んでいるのかと感心した。医者をやめてドイツで基礎研究を始めた時選んだテーマがBリンパ球の発生だった。私のテーマは未熟B細胞増殖調節だったが、同じ過程で何百万種類の抗体遺伝子の組み合わせが選ばれ、一個のBリンパ球が1種類の抗体を発現する遺伝子再構成が起こることから、遺伝子再構成のメカニズムについての研究が利根川,Baltimore,本庶など当時のスター研究室で進んでいた。同じ細胞を扱っていたことから、私自身もこの分野の研究者と交流が深かった。当時は現在の教科書に書かれている再構成のルールが明らかになり、焦点はどの分子がこの再構成を行っているのかに絞られていたが、最終的にBaltimoreの研究室のShatzがRAG1,RAG2遺伝子が遺伝子再構成の主役であることを発見する。その後私自身は研究を血液の発生全体に広げたため、これ以降の進展については、時折目に止まった論文を読む程度だったが、今日紹介するAltたちの論文はこのRAG1,2分子がどのように広い範囲のゲノム領域の中から再構成する相手を決めているのかを研究したものでCellオンライン版に掲載された。タイトルは「Chromosomal loop domains direct the recombination of antigen receptor genes (染色体上のループ領域が抗原受容体遺伝子の再構成を指示している)」だ。
極めてマニアックな研究で、生物学の研究のプロでもおそらく理解に時間がかかる論文だと思う。研究ではRAG1,RAG2の遺伝子への結合を決めている真性のシグナル配列(RSS)とは別の、RSSに配列が似ているため間違ってRAGが結合してしまうoff target配列を全てリストする方法を開発し、RAGによる再構成はゲノム全体に散らばるoff-target配列と真性のRSS間で起こるが、その範囲は染色体のトポロジーを決めているTADという構造内(http://aasj.jp/news/watch/3533参照)に限局されるようになっており、これが抗体遺伝子再構成が他の領域を巻き込まない理由であることを明らかにしている。さらに、再構成の相手を選ぶ時の方向性がCTCFと呼ばれる分子が結合する遺伝子配列の向きによって決められていることを明らかにしている。わかりやすく図式的に言うと、真性のRSS配列に結合したRAG1,RAG2はCTCFが決める方向性に従って遺伝子をたぐって相手方を決めるが、TADの境界を決めている場所に来ると手繰り寄せが止まり、それ以上進展されないようになっている。この時、どの部位と実際結合するかはおそらくIGCR−1領域のノンコーディングRNA存在と深く関わっており、この部位を欠損させると再構成される領域が強く抑制されるという結果を示している。この分野の研究者が他の領域に移っていく中で、Altは抗原受容体遺伝子再構成のメカニズムを極め、新しい普遍性を持った領域を開拓しつつあると実感する論文だった。   結局分野の違う人にはわかりにくい話だったと思うが、読んでみてここまでわかったのかという感慨を持つと共に、抗原遺伝子再構成というマニアックな領域が、ガンやCRISPRまで巻き込む、本当は多くの普遍的重要性を含んだ分野になってきたと私は確信した。若い人は「関係ない」と決めつけず、ぜひ一度論文を手に取ってほしいと思い紹介した。

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