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11月8日新しいしょうこう熱の危険(Scientific Reportsオンライン版掲載論文)

2015年11月8日
よく考えてみると、医学部を卒業してから今日紹介するオーストラリア・クイーンズランド大学からの論文を読むまで、しょうこう熱のことを考えたことはなかったように思う。実際、私が臨床をやめてすぐからしょうこう熱ではなく、溶連菌感染症の一つの症状として扱われるようになっていた。発熱とともに全身に発疹が現れ、舌にイチゴのようなつぶつぶが現れる特徴的な症状から、医学部ではテストに出る頻度の高い定番の病気だった。ただ同じ溶連菌によっておこる、扁桃腺炎や、トビヒと呼ばれる皮膚感染症などではこの特徴的全身症状は出ない。というのも、しょうこう熱はスーパー抗原と呼ばれるほとんどのT細胞を刺激できるタンパク質SSAを発現する溶連菌に感染するときだけ起こってくるからで、溶連菌感染は今も世界中で蔓延しているが、しょうこう熱の原因となるSSAやSpeCを発現している溶連菌はほとんど見られなくなっていた。ところが2011年中国や香港で10万人を超えるしょうこう熱の患者が発生し、2013年に英国でも50000人規模の発症が見られた。なぜ今しょうこう熱が新しく発生し始めたのか原因を探るため、中国と香港の患者さんから分離された溶連菌のゲノムを調べたのがこの論文でScientific Reportsオンライン版に掲載された。タイトルは「Transfer of scarlet fever-associated elements into the group A streptococcus M1T1 clone (しょうこう熱誘導因子のM1T1溶連菌クローンへの移行)」だ。この研究では全部で34人の患者さんから分離した溶連菌ゲノムを調べ:
1) しょうこう熱を起こした溶連菌はすべて1980年初めて分離された溶連菌株で、多くがマクロライド系抗生物質に対する耐性遺伝子を獲得したM1T1系統。
2) 溶連菌に感染するバクテリオファージを媒介にしょうこう熱を引き起こすスーパー抗原SSA, SpeCを獲得している。
ことを明らかにした。この結果は、今後抗生物質耐性を獲得した溶連菌が、いつでもバクテリオファージ感染によりスーパー抗原を獲得し、しょうこう熱を引き起こす可能性があることを示唆している。従って、このスーパー抗原遺伝子の広がりを世界規模で調査するとともに、耐性をもつ溶連菌の発生をできる限り防ぐことが重要になる。論文でも、溶連菌感染はできる限りペニシリンで治療し、マクロライド系抗生物質への耐性菌の出現を防ぐよう具体的提言も行っている。今後もしょうこう熱のことをすっかり忘れて生活できるよう対策を打ってほしいが、Scientific reportsの論文を臨床の先生は読むのだろうかとちょっと気になった。

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