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11月11日ヒトの造血システムの見直し(Scienceオンライン版掲載論文)

2015年11月11日
ティルとマッカラによる脾臓コロニー検出法開発以来、造血システムの単細胞レベルでの研究はカナダの伝統だ。その伝統を受け継ぐ一人が今日紹介する論文の著者ジョン・ディックで、これまでも白血病の幹細胞の概念をはじめ、ヒトの造血システムで優れた研究を発表している。さて、昨年10月9日、マウス骨髄細胞の動態を調べ、造血システムが、未分化で多能性の幹細胞から増殖能が制限された様々な幹細胞、そして最終的に各系列に特化した細胞に順々に分化するとする従来の階層的モデルを真っ向から否定する論文を紹介した(http://aasj.jp/news/watch/2276)。今日紹介するディックらのScienceの論文もこの考えに近いモデルをヒト造血システムについて提案するもので、タイトルは「Distinct routes of lineage development reshape the human blood hierarchy (個別の血液系列発生経路の存在は新しいヒト造血の階層性を示している)」だ。この研究では、造血細胞中の様々な分化段階の幹細胞をセルソーターで分離し、個々の細胞の分化増殖能を様々な増殖因子と造血支持ストローマ細胞の存在下で丹念に調べた膨大な研究で、体内での造血動態を調べることの困難なヒトの造血幹細胞の研究としてはこれ以上の方法は難しいと考えられるぐらい徹底していると思う。結果は、胎児期の造血組織や臍帯血には多能性を持つ中間段階の幹細胞が十分認められるが、大人の骨髄になるとこの研究で使われたコロニー検出法で多能性が検出される幹細胞はほとんど見られなくなることを発見している。普通このような結果は、培養条件が悪いためと切り捨てられるのだが、この研究では、同じ条件で胎児肝臓細胞や臍帯血では多系列へ分化できる幹細胞を検出できることが示されており、幹細胞自体が骨髄内で変化したという結論を確かなものにしている。結論としては、これまでのように様々な能力を持った幹細胞が階層的に分化するのは胎児期だけで、成人の骨髄造血は、幹細胞としてはもっとも未熟な幹細胞と多能性の前駆細胞の2種類だけが維持され、そこから各系列に分化した細胞が直接発生するという結果だ。完全に同じとは言えないが、マウスの骨髄動態についての最近の考えと近いのではないだろうか。   ただ気になるのは、このように新しいマーカーを用いて純化した細胞の分化増殖能を調べる現象論的研究の繰り返しでは、議論に終わりがないことだ。実際、造血細胞のコロニー検出法が開発されて半世紀以上経っている。ぜひ現象論から一歩踏み込んで、この背景にある分子メカニズムを解明する研究が生まれて欲しいと思う。半世紀にわたって議論されてきた全ては、転写調節による分化調節メカニズムと自己再生能の調節メカニズムの問題に集約できる。現象論を繰り返して議論し論文を生産するのは楽しいが、このサイクルはメカニズム研究を通して必ず決着をつけることができる。これを実現する若手の登場を期待したい。

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