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11月12日:プレシジョンメディシンの先駆け(11月5日号JAMA Oncology掲載論文)

2015年11月12日
オバマ大統領の一般教書演説でわざわざ取り上げられたということから、我が国でもプレシジョンメディシンという言葉が注目されるようになったが、要するに個人やその病気に合わせて最適の治療を行うことで、我が国ではこれまでテーラーメイド医療と言う言葉で語られていたことだと思う。例えばガンのゲノムを調べ、個別のガンについてガン化に関わる分子を標的にした治療を行うことや、アンジェリーナ・ジョリーさんのようにBRCA遺伝子の突然変異を知って、予防的に乳房切除を行うこともプレシジョンメディシンに入るだろう。今日紹介するテキサス大学MDアンダーソン・ガンセンターからの論文は、口内にできた前癌状態、白板症がガンに発展するのを標的薬で予防できるかというかなり挑戦的な課題に取り組んだ研究で11月5日号の JAMA Oncologyに掲載された。タイトルは「Erlotinib and the risk of oral cancer. The erlotinib prevention of oral cancer randomized clinical trial (口腔ガンのリスクとエルオチニブ。エルオチニブによる口腔ガン発生抑制についての無作為化治験)」だ。このグループは以前白板症のバイオプシーの遺伝子を調べ、9番と3番の染色体上のマイクロサテライトが欠損するとガン化リスクが上がることを発見していた。この研究では379人の白板症の患者さんをリクルートし、まずこのマイクロサテライトを調べ陽性群と陰性群に分け、陽性群のうち研究に同意してくれた患者さん150人を無作為的にEGF受容体の活性を阻害するエルオチニブ投与群と、偽薬投与群に分け、あらかじめEGF受容体の活性を抑制することでガンの発生を阻止できるか、長期間観察している。マーカーとして、マイクロサテライトの他にもEGF受容体遺伝子の増幅も調べリスク判定に使っている。結果だが、まずマイクロサテライトやEGF受容体遺伝子の増幅がリスク判定に使えることは明らかで、例えばマイクロサテライトが欠損している場合、ガンの発生率はほぼ2倍になる。さらにEGF受容体遺伝子の増幅とマイクロサテライト欠損が重なると実に半分以上の人でガンが発生する。ただ、予防薬としてエルオチニブを投与した群と偽薬群では発生率に差がなく、予防薬としては利用価値がないという結果だ。低容量アスピリンなど、ガン予防薬の研究はこれまでも行われているが、EGF受容体の増幅など標的遺伝子の検査からリスクを算定した上で、標的薬を投与する研究としてはおそらく世界初だろう。この研究はアステラスの子会社OSI Pharmaがスポンサーになっているが、製薬企業にとっては残念な結果だろう。しかし、抗がん剤として開発した薬剤を予防薬としてでも利用しようとする創薬の執念を垣間見た気がする。いずれにせよ、白板症の遺伝子を調べてリスクを判定できることは明確だ。今後ガンと白板症の違いを基盤にした治療につながるだろう。この研究は治験研究としてはいわばネガティブデータを示した研究だが、論文として採択されている。少なくとも治験研究に関しては、統計的にポジティブデータも、ネガティブデータも論文として採択されることが知られている。ほとんどのネガティブデータが闇に葬られる中で、このようなネガティブデータの論文は貴重だ。

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