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11月13日:DNA損傷により染色体が動き始める(11月5日号Cell掲載論文)

2015年11月13日
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論文を読んでいると、これまで考えもしなかったことを学ぶことができる。普通の人には考えられないだろうが、これも長く科学で飯を食ってきたおかげだと思う。裏を返すと、それを着想し、実験的に証明する科学者がいるということで、皆が思いもかけないことに取り組む科学者の層の厚さがその国の科学力になると思う。今日紹介するロックフェラー大学からの論文はかなりプロでないと着想できない研究で11月5日号のCellに掲載された。タイトルは「53BP1 and the LINC complex promote microtuble-dependent DSB mobility and DNA repair (53BP1とLINC複合体はDNA2重鎖切断部位の微小管を介した動きとDNA修復を促進する)」だ。イントロダクションを読むと、放射線などでDNAを切断するとクロモゾームの動きが活発になることが知られていたようだ。この研究では、まずDNA切断部位の動きをビデオで捉えるための方法を開発している。放射線によるDNA切断は染色体に広く分布するため全て追跡することは難しい。代わりに著者らは染色体の断端、テロメアに着目する。染色体の断端は言ってみればDNAが切断された部位に相当する。ただ TRF2と呼ばれる分子によりこの断端が障害部位と認識されないようにしている。したがってTRF2を欠損した細胞を使うと、テロメアをそのままDNA障害部位として追跡することができる。追跡には切断部に結合する53BP1分子に蛍光物質を結合させた標識を用いる。正常の細胞から急にTRF2を除くと蛍光標識された53BP1がテロメアに結合する。この動きを追跡することで、切断部の動きをモニターできる。この方法を開発したことがこの研究の全てだが、期待どおりテロメアは動き回り、最終的に他の染色体のテロメアと融合する。すなわち、修復と同じ反応が起こる。この動きの原動力を調べるために、細胞骨格になるアクチンやチュブリンの重合を阻害すると、チュブリンでできた微小管の動きが止まると、テロメアの動きも止まり、テロメア融合も減る。すなわち、切断部に結合した53BP1と核外の微小管がなんらかの結合をして切断部を動かしていることがわかる。この結合に関わるメカニズムとして著者らは核内の分子と核外の微小管を結合させているLINK複合体に着目し、それぞれの分子を欠損させてテロメアの動きを観察すると、この複合体がないと動きが止まることを発見した。これが結果の全てで、切断部に存在する53P1とLINK複合体がどのように連携しているのかはまだわからないが、DNA切断部を動かすことが断端部の再結合を促進し、修復を促していると結論している。素人的には、切断部が動いて揺らいだりすると余計に修復が起こりにくいように思える。実際、修復に必要なBRCA1が欠損した細胞にDNA損傷を加えてやると間違った部位の結合が起こるが、チュブリンとの結合を抑制するとこの異常修復は抑えられる。この問題に対し著者らは、もともとDNAが切断されることはほとんどなく、あっても1−2ヶ所だけだと考えると、離れた切断部を動かしたほうが修復確率が上がると説明している。もちろん、異常に切断部位が多いような状況では、切断部が動くことで間違った修復が増え、異常細胞を除去するのに一役買っているとも言える。とするとガンを叩く目的でDNA損傷を加えるとき、チュブリンの重合を止めたり安定化させてしまうと、抗がん剤の効果が減じることになるため、注意が必要なことを示唆している。面白く、ためになる納得の論文だった。

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