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11月14日:膵臓癌を助けるT細胞(Nature Medicine 11月号掲載論文)

2015年11月14日
最近有名誌に掲載される膵臓癌についての研究論文が増えているように思える。今週だけでも、Natureに膵癌のEMT(上皮間質転換)とガンの化学療法抵抗性の研究、GastroenterologyにCD44阻害による膵癌抑制、Nature Medicineに個別の膵癌を動物に移植して抗がん剤の影響を調べる大規模試験、そして同じ号のNature Medicineに掲載された今日紹介する論文を目にした。おそらくこれは、膵臓癌の発症率が増加傾向にあるにもかかわらず21世紀に入ってほとんど治療成績に改善はなく、最も死亡率の高いガンであるという認識から、米国政府が予算を増加させている結果ではないかと想像している。今日紹介する米国NIHからの論文は膵臓癌自体ではなく、膵臓癌の周りに起こる炎症を起こすT細胞についての研究で、タイトルは「Selective inhibition of the p38 alternative action pathway in infiltrating T cells inhibits pancreastic cancer progression(p38迂回経路を介する浸潤T細胞の活性化の選択的抑制による膵癌進展の阻害)」だ。膵臓癌の最も著明な特徴は、周りに線維化を伴う強い炎症を伴うことで、この炎症が膵臓癌の増殖を助けているのではと考えられている。この研究ではこの強い炎症の引き金を引くのが様々な炎症性サイトカインを分泌するT細胞ではないかと着想し、サイトカイン分泌に関わるシグナルp38が活性化されたT細胞の比率を膵臓癌の手術組織で調べ、炎症とp38の活性化が相関していることを明らかにしている。また、p38の活性化されたT細胞の比率が、膵臓癌の悪性度とも関わることを示し、膵臓癌の悪性度はガンだけでなく、周りのT細胞の反応性にも左右されることを明らかにしている。次に、p38の上流に位置するシグナル経路を検索し、迂回路として知られているシグナル経路がこれに関わることを確認したうえで、この経路を選択的に阻害するGADD45分子由来のペプチドを設計し、このペプチドの効果をマウスモデルで調べている。結果は期待通りで、このペプチドを投与すると、T細胞のp38活性化を抑え、結果としてガンの増殖を抑制することができる。まとめると、膵臓癌の進展には周りに浸潤したT細胞のp38迂回路を介した活性化が深く関与しており、これを抑制するとガンの増殖も抑えられるという結果だ。なんといっても、ペプチド薬とはいえなんとか薬剤開発にまで進んだ点が評価できる研究だ。幸いこの経路は今注目されているガンのキラー細胞活性には関わっていないようで、炎症だけを抑えられるようだ。今後この方法にに、血管の増強、そしてガン自体に対する様々な治療法が組み合わさったプロトコルの開発が進むだろう。つぎはぜひ延命だけでなく、根治を目指した治療法の開発を期待したい。

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