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11月25日:ジストロフィン(筋ジストロフィー原因分子)の新しい機能(Nature Medicineオンライン版掲載論文)

2015年11月25日
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ドゥシャンヌ型筋ジストロフィーは全身の筋肉が進行性に変性する、現在まで決定的な治療方法のない遺伝性疾患だ。ただ、この病気の原因になる分子ジストロフィンの機能とジストロフィーの発症メカニズムについては研究が進んでおり、筋繊維と細胞骨格を連結する役割を担うジストロフィンが欠損すると筋繊維の安定性がなくなり、その結果筋肉が変性すると説明されてきた。また、これまで私もそう理解してきた。しかし最近これだけでは説明できない現象が発見されていたようだ。今日紹介するカナダ・オタワ大学からの論文はジストロフィンの新しい機能について明らかにし、筋ジストロフィー発症の新しいメカニズムを提案している研究でNature Medicine オンライン版に掲載されている。タイトルは「Dystrophin expression in muscle stem cells regulates their polarity and asymmetric division (ジストロフィンの筋肉幹細胞での発現は細胞の極性と不等分裂に関わる)」だ。これまジストロフィンは筋肉幹細胞には発現していないのではないかと考えられてきたようだが、著者らはジストロフィンが筋肉幹細胞にも発現し、しかも幹細胞が活性化されると、分裂前から細胞の片側に局在して極性を作り、娘細胞の分化を誘導することに気がついた。この発見がこの研究の全てだと思うが、この結果を受けて、ジストロフィンの機能を、幹細胞が未分化細胞と分化細胞へと不等分裂を起こす時のオーガナイザーの役目を果たしていると着想する。そこでジストロフィンの発現を幹細胞でノックアウトすると、予想通り不等分裂がうまく進まず、分化した細胞が産生されない。また、これまで筋肉幹細胞の不等分裂を調節する様々な分子パスウェイとジストロフィンは、微小管の構成を調節するシグナル分子Mark2を介して連結していることも分かった。ジストロフィンが欠損すると、不等分裂の鍵となるPard3分子が細胞全体に分布し、極性が成立しないという結果は、ジストロフィンが幹細胞の不等分裂をガイドするための細胞極性成立の決定因子であることがわかる。おそらく、細胞の分裂方向を決めるのに一役買っていると推定しているが、この結果細胞の分化が進まないだけでなく、細胞分裂自体も異常になり、その結果細胞が死ぬことも明らかにしている。最後に、生体内の幹細胞でのジストロフィン欠損の効果を筋肉再生モデルを使って調べ、幹細胞が担っている再生が阻害されることを示している。これまで示唆されてきた可能性がすべて覆るわけではないが、この研究により、幹細胞レベルの再生にもジストロフィンが関わることが明らかになり、今後幹細胞をターゲットとした遺伝子治療や細胞治療の可能性を示唆している。今後ヒトの筋肉細胞でもこの説が正しいか確認されるだろう。わかったと納得しないことが新しい研究に重要なことがわかる良い例となる研究だと思う。
  1. Okazaki Yoshihisa より:

    1:ジストロフィンが筋肉幹細胞にも発現
    2:幹細胞が活性化されると、分裂前から細胞の片側に局在して極性を作り、娘細胞の分化を誘導する

    →正常なジストロフィン遺伝子を筋肉幹細胞に導入するなど、新たな遺伝子細胞治療の可能性も感じる論文でした。

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