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12月9日:慢性リンパ性白血病の新薬(12月7日号The New England Journal of Medicine掲載論文)

2015年12月9日
慢性リンパ性白血病(CLL)は小細胞性リンパ腫とほぼ同じ病気で、成熟B細胞が異常増殖しておこる。欧米では最も患者数の多い白血病だが、幸い我が国では発症率は欧米の10分の1にとどまっている。ただ、高齢者に多い病気で、高齢化とともに増加すると考えられる。病気の進行は極めて遅く、治療しなくとも何年も、場合によっては10年以上普通の生活を送ることができる。従って、いつどの患者さんに治療を始めるかが悩ましい問題になる。普通は経過観察から始め、貧血や血小板減少症が出てきた時に治療を始める。   B細胞は体の細胞の中でも増殖シグナルについて最もよく研究されている細胞で、また標的薬を探しやすい様々なリン酸化酵素に依存して増殖するため、30年近い研究の成果が続々臨床応用されている。中でも期待されているのが、抗原受容体と結合してシグナルを伝達するBtkに対する分子で、イスラエルで開発されたイブルチニブは、通常の抗がん剤が効かないほとんどの患者さんの治療に高い効果があることが示され、我が国でも販売が始まっている。今週号のThe New England Journal MedicineにはCLL治療についての論文がなんと3報一度に掲載されている。この中で最も興味を引いたのはテキサスMDアンダーソン病院を中心に行われた治験だ。治療を行う時期が来た未治療の患者さんで、全身状態は良好な65歳以上の高齢者のCLLを選び、イブルチニブと一般的に使われるクロラムブシルを比べている。どちらの薬にするかは無作為化しているが、非盲検で比べている。高齢者を選んでいるのは、最も有効とされているプロトコルは副作用が強く、高齢者に使える新しい治療が待たれているからで、副作用がなく高い効果が期待できる標的薬を最初から使うことの意義は納得できる。結果は期待通りで、クロラムブシルの場合7割の患者さんが2年後には病期が進んでいたが、イブルチニブ投与群では病期が進行したのが2割にとどまっていた。もちろん進行は遅いため、2年目の生存率で見るとクロラムブシル群でも90%に近いが、さらに長期間観察すればその差は明らかになるだろう。副作用も十分対応できる範囲だ。この結果を見れば当然、高齢者には最初からイブルチニブということになるが、我が国では話はそう簡単ではない。この薬は販売されているが、保険収載はされていない。実際、1日一錠この薬を服用する治療は月120−130万円かかる。しかもこの研究では観察期間中ずっと服用を続けており、治療を止められるのかはっきりしない。すなわち1年間に2000万円近い費用が必要になる。しかもいつまで必要かわからない。また幸い保険収載されたとしても、今度は保険財政を圧迫すること間違いない。さらに、ほとんどの標的薬に対して耐性が生まれる。イブルチニブもホームページで紹介したように(aasj.jp/news/navigator/navi-news/1639)耐性が問題になっている。もともと経過が長い病期だけに、患者も医師も使用について悩むことが多いと思う。同じ号にはBtk分子により高い特異性を示す標的薬アカラブルチニブが他の治療が効かなくなった患者さんに高い効果があることを示したオハイオ大学の論文、同じような患者さんにBCL阻害剤ベネトクラックスが効くことを示したオーストラリアからの論文が掲載されている。他にも昨年、末期のCLLにキメラ抗体を導入したT細胞治療が著効を示すことを紹介した(http://aasj.jp/news/navigator/navi-news/2309)。
  このように多くの病気で本当はトランスレーションが進み、認可された薬剤は今目白押しといっていい状況が今きている。ただ、この状況が患者さんにとって素晴らしいと手放しで喜べないところに問題がある。はっきり言って、あまりにも多すぎるため、これらをどう有効に利用していいか医療政策方針が立っていない。おそらく、標的薬、非標的薬、細胞治療を問わず、短期治療で根治が可能な治療、根治は不可能だが長期延命が可能な治療、延命治療などの分類をしっかりして、薬価や特許期間を決める必要がある。もし根治の場合は、高い薬価でもいい。一方、根治が不可能でも効果が高い場合は、特許期間を伸ばしてでも薬価を下げる工夫が必要だ。TPPで特許期間を短くしたと喜んでいるが、そのしっぺ返しは患者さんにくる。医療ではこの問題解決なくしてイノベーションも何の役にも立たない。

  1. 佐野博雪 より:

    早く認可される事を願っています。

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