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12月15日:乳がんの抗エストロジェン療法の比較(12月10日号The Lancet掲載論文)

2015年12月15日
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このホームページに書いている記事のほとんどは、医学生物系の大学レベルの知識がないと読みにくく、一般の人には難しいと思う。それでも、努力して読んでいただいている患者さんを始めとする多くの一般の方がおられるので、わかりやすい治験研究などはできるだけ紹介しようと思っている。ただ最近、治験時の捏造問題を調べる際に参考にした、英国の医師Ben Goldacre著「Bad Pharma」(写真:Wikipediaより)を読んでから、どうも治験をそのまま紹介していいのか心配になる。物議をかもすことまちがいない本なので日本語に訳されていないと思うが、医学部の学生さんには是非読んでほしい本だと思っている。英国の話だが、例えば学会で製薬会社の接待を受けると、次の週にその会社の薬剤が処方される確率が高まるといった調査が論文として出ていることがわかる。この本の優れた点は、暴露と責任追及で終わるのではなく、防止のための具体的方策の提案が最後になされている点だ。倫理とコンプライアンスの強調と、リストラしか出てこないどこかの国の知識人や専門家とは大違いの本だ。しかし、ここでも取り上げたタミフルを始め、治験のカラクリが赤裸々に描かれているのを読むと、治験について素朴に紹介するのが躊躇されるこの頃だ。  と前置を述べた上で、今日紹介する米国・カナダの医療施設が共同で発表している論文は、乳がんの標準治療となっている手術と放射線照射に組み合わせる、アジュバントホルモン療法に使う薬剤を比較した第3相治験で12月10日号のThe Lancetに掲載された。タイトルは「Anastrozole versus tamoxifen in postmenopausal women with ductal carcinoma in situ undergoing lumpectomy plus radiotherapy : a randomized, double blind, phase 3 clinical trial (腫瘍摘出と放射線治療を受けた閉経後の非浸潤性乳がん患者さんに対するアナストロゾールとタモキシフェンの効果:第3相二重盲検無作為化治験)」だ。Bad Pharmaで培った目でこの論文を見てみよう。この研究では、限局性乳がんにたいする手術と放射線治療に加えるホルモン治療としてのエストロジェン受容体阻害(タモキシフェン)とアロマターゼ阻害剤(アナストロゾール)によるエストロジェン産生阻害の効果を比較している。治験研究では必ず研究者と製薬会社とのつながりを公開した欄をみることにしているが、参加研究者は、ノバルティス、ロッシュ他からアドバイザーとしての謝礼は受け取っているようだが、今回比較した薬剤は、ともにアストラゼネカ社が開発したもので、製薬会社の意見に影響していると思う必要はなさそうだ。もちろん、同じ会社でも注意が必要で、薬価が高い方を売りたいものだ。この点から言うと、アナストロゾールの方が薬価が高く、特にまだ特許が有効でジェネリック薬はない。もしアストラゼネカがこの研究のスポンサーなら少し注意して読む必要が出てくる。   さて、アナストロゾールはエストロジェンが主に副腎から作られる閉経後の患者さんにしか効果がないので、この研究では閉経後の患者さんを選んで比べている。比較方法は統計的には厳密な方法だ。これまでの治験でもアナストロゾールの方が効果が高いと示されていたが、この治験は3000人以上の患者さんをリクルートして、本当に薬価の高いアナストロゾールの方が効果があるのか比べている。結果は、両者でほとんど差はないが、6年以上経過したところで、アナストロゾールの方が再発率、特に手術していない方の乳腺での再発が低いという結果だ。それでも、89%と91%の差だ。このような場合、母数を調べ直して効果をはっきりさせることが多いのだが、この研究でもこの手法が使われ、60以前の患者さんでは明らかにアナストロゾールの方が効果が高いようだ。Bad Pharmaを読んで培ったセンスで、この研究を読んでみたが、高いと言っても1錠100円程度の差なら、副作用も考えてアナストロゾールかなと思った。

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