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12月18日:大腸ガンとホメオボックス遺伝子:臨床と基礎を直結させるために(12月14日Cancer Cell掲載論文)

2015年12月18日
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5年ぐらい前、ガン研究大型予算の助成を受けている選ばれた研究者のヒアリングに参加した時、日本のガン研究の問題として、研究が動物実験の段階にとどまっているように感じた。現状はわからないが、論文を読んでいると、この問題は解決していないように思える。もちろん、すべて動物実験を排除せよというのではない。ほとんどが動物実験でも、実際の臨床例が頭の片隅ででも対応付けられているかが大事だ。今日紹介するスイス・EPFLからの論文は臨床を念頭に置いて動物実験を行うことがどんなことか教えてくれる一例で12月14日号Cancer Cellに掲載されている。タイトルは「HoxA5 counteracts stem cell traits by inhibiting Wnt signaling in colorectal cancer (HoxA5は直腸癌のWntシグナルを阻害して幹細胞性に拮抗する)」だ。研究自体は比較的単純で、動物実験だけなら論文を通すのは難しいだろう。腸管上皮の幹細胞の自己再生に必須のWntシグナルを抑制した時、HoxA5と呼ばれるホメオボックス遺伝子が活性化することを発見し、これが自己再生を止めて細胞分化を誘導するのではと着想したところから始まる。この考えを確かめるため、腸管の幹細胞でHoxA5を発現させると、自己再生が止まり、文化が促進する。逆にHoxA5をノックアウトすると自己再生が高まる。ここからだが、では実際の直腸癌ではどうなのか、直腸癌の遺伝子発現データベースを調べている。この一手間が、この基礎研究を臨床例に結びつけている。期待通り、HoxA5を発現している直腸癌の予後は、発現の低いガンと比べるとかなりいい。また直腸癌にHoxA5を発現させると、ガンが分化する傾向を示す。そこでモデルマウスに戻って、HoxA5を誘導することが知られているレチノイン酸をガンに加えると、HoxA5を発現してガンの発生や転移を抑制することができる。もちろんヒトの治療実験までには早いが、人の細胞株の一つではレチノイン酸によりガン細胞が分化するということも確かめている。もともと、PMLと呼ばれる白血病の治療にレチノイン酸が使われていることを考えると、面白い可能性だ。様々な薬剤も開発されていることを考えると、臨床にも近いかもしれない。
  現役時代よく使って驚いたが、ガンの遺伝子発現データベースは素晴らしく整備されている。もし我が国のガン研究が、5年前と同じようにモデル系から抜け出せていないなら、この国際的財産であるデータベースを使いながら、基礎と臨床をダイナミックに結びつける研究を期待したい。共著者として京大の西田さんたちも入っているので、共同研究を通して「一手間」が当たり前の習慣が身につけばと思う。

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