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12月25日:赤鼻のトナカイはなぜサンタさんに選ばれたのか?(12月21日発行Frontiers for Young Minds掲載論文)

2015年12月25日
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Frontiers for Young Mindsというジャーナルを読んだことのある人はほとんどないと思うので、まずこの説明から始めよう。2008年に亡くなったコーヒー貿易商、Klaus Jacobsの遺志で2009年に設立されたJacobs Foundation (http://jacobsfoundation.org/)がある。Klaus Jacobsは知らなくとも、 Jacobsコーヒーと聞くと、ドイツに住んだことのある人なら、「あれか!」と思い出すはずだ。この財団は子供の健やかな成長を助けることを目的としており、その活動の一つとしてこのウェッブジャーナルFrontiers for Young Mindsを発刊している(http://kids.frontiersin.org/)。オープンアクセスなので誰でも読めるのでぜひ訪れてほしい。このジャーナルは健康、地球、天文、脳のセクションに分かれており、論文は要約、前書き、本文、討論、引用論文という普通の科学論文形式で書かれるが、レビューアーは選ばれた少年たちだ。すなわち、彼らにわかることが重要な条件だが、科学的であることが一番重視される。どんな雑誌かは、今日紹介する論文を見てもらえればわかるだろう。ダートマス大学人類学・生物学講座のDominyさんの論文で、タイトルは「Reindeer vision explains the benefits of a glowing nose (トナカイの視覚から赤鼻の利点がわかる)」だ。研究の目的は、赤鼻のトナカイの歌にあるルドルフがサンタさんに選ばれた理由を探ることだ。ここで問題になる歌詞は、「ルドルフは赤鼻のトナカイで、輝くような鼻の持ち主だ。おそらく見た人は、光を発していると思うはずだ。他のトナカイはいつも赤鼻・赤鼻とルドルフを笑い者にして、一緒に遊んでくれなかった。ところがある霧の深いクリスマスイブにサンタさんが来て「ルドルフ、お前の鼻は明るいので、今夜そりを案内してくれないか」の部分だ。この歌詞にはHazenさんの新しい解釈もあるようで、ルドルフの鼻は赤ぶどうの実に似ていて、この木の中に紛れていつも隠れていたようだ。   まずイントロダクションで、この赤鼻が霧のクリスマスに必要かがこの研究の課題だが、こんな鼻がめったに見つからないので研究されてこなかったことを述べている。ここでAnomalous(特異的、異常)を使って、稀であることで差別することの間違いもちょっと諭しているようだ。  さて本文だが、まずトナカイが雪の中で天敵の狼や、食べ物としての苔を見つけるため紫外線まで見ることのできる視力と、光を反射して網膜を守るTapetum Lucidumを持つ動物であることから始まっている。次になぜ霧が視力を妨げるかについての説明だ。特に冬に地面に冷やされて起こる放射霧と氷霧が光を散乱させ、見通しを悪くするかを説明する。そして、この光の透過性も、粒が小さいと透過性の高い色があることを述べる。そして、小さな粒の霧で力を発揮するのが、赤イチゴの波長700nm、すなわちルドルフの赤鼻の波長で、だからサンタの役に立ったのだと結論している。ただ、この赤鼻は多くの血管が鼻に集まることでできているので、熱を失いやすい。だから、もしルドルフを見かけたら、栄養のつく食べ物をあげてほしいと本文を締めくくっている。  最後に討論だが、役に立つ鼻ならどうしてトナカイの中で増えてこないのかを説明する必要がある(進化にまで触れているのには頭が下がる)。一つの可能性として、最近霧の日が減ってきて、あまルドルフの出番がなくなっているのではと議論している。また、赤鼻になった原因は感染性のもので、遺伝しないという他の説も紹介し、様々な可能性を考えるのが科学で、ルドルフの鼻を考えることから極地の光や霧について新しい発見ができると述べて終わっている。(英語で書かれているが、オープンアクセスなのでhttp://kids.frontiersin.org/article/10.3389/frym.2015.00018 で誰でも見ることができるので、絵を見ながら子供に説明してあげてほしい)。   子供に科学とは何かを教えるための素晴らしい試みだと思う。学ぶところの多い、自由な発想の試みだ。わざわざ新たに作る必要はないので、是非日本語訳を作って日本の子供たちに提供しようとする大学生たちが集まることを期待したい。もちろん私も全面的に手伝いたい。

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