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1月3日:ちょっと驚く免疫活性化剤(Nature Nanotechonologyオンライン版掲載論文)

2016年1月3日
キメラT細胞受容体を導入した自己T細胞や、抗PD-1, CTLA4抗体を用いたチェックポイント治療の導入で、私たちに備わった免疫機能がガンの根治を期待できる力強い味方であることが分かっている。ただ現在行われている免疫治療は根治に向けた第一世代で、幾つかの大きな課題を抱えている。キメラT細胞受容体療法に関しては、何と言っても正常細胞に対する反応をどこまで抑えて、ガン特異的な治療法に発展させられるかが鍵になるだろう。一方、チェックポイント治療は、ガンに対する免疫が成立していないと無力であるため、ガンに対する免疫を成立させる方法の開発が最重要課題として研究されている。事実、従来の化学療法がガン免疫の成立に寄与できるか?といった課題についての総説が出るなど、免疫治療を中心として全治療を再構成し直そうという動きもあるぐらいだ(Cancer Cell 28, 690)。今後免疫を成立させるための様々な方法が開発されると期待できる。今日紹介するDartmouth大学とCase Western大学からの論文は、「え!本当!」と虚を突かれるほどの方法で、Nature Nanotechnologyオンライン版に掲載された。タイトルは「In situ vaccination with cowpea mosaic virus nanoparticles supprsses metastatic cancer(ササゲモザイクウイルスのナノ粒子によるワクチン局所投与は転移性の腫瘍を抑える)」だ。この研究でワクチンと呼んでいるのはガン抗原ではなく、免疫活性化剤のことを指している。実際使われたのはCowpea mosaic virus (ササゲモザイクウイルス)に感染するウイルスの殻だけを再構成させたナノ粒子で、植物なので大量に調整できる。もちろん核酸は含んでいない。ただ、この粒子を骨髄細胞と培養すると、白血球に取り込まれ炎症性のサイトカインが刺激される。すなわち、アジュバントと言われる免疫活性化作用がある。このナノ粒子を黒色腫が肺に転移したマウスに吸入させると、転移巣の増殖が防げる。組織学的に調べると、この粒子は局所の白血球に取り込まれ、多様な免疫担当細胞の浸潤を誘導することが確認されている。メカニズムは今後の研究に任せるとして、気になるのはこのナノ粒子の他のガンへの効果だが、乳がんの肺転移、皮下移植された直腸癌、卵巣癌の腹水など調べたほとんどのガンに効果がある。さらに、一旦免疫が成立すると、再注射された同じガンは完全に拒絶される。同じようなアジュバント治療はこれまでも開発されているが、それらと比べると圧倒的な効果だ。何か嘘があるのではと疑いたくなるが、抗原も、薬も、遺伝子も必要ない免疫活性化剤がこれほど効果があるなら、これを基盤に様々な新しいテクノロジーを開発できるかもしれない。また、このナノ粒子を調整するのは難しくないだろうから、薬として治験が始まるのも遠いことではないだろう。この頃はガン免疫の論文にそれほど驚かなくなったが、なぜこの粒子に思い至ったのか、こんな簡単な方法で免疫が活性化できるのか、などこの論文には驚かさることが多く、いいお年玉になるように思える。

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