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1月5日:データベースを駆使してゲノムと脳機能を相関させる(12月20日号Nature Neuroscience掲載論文)

2016年1月5日
昨日は細胞のアイデンティティーを決めるゲノム、エピゲノム、染色体構造という異なるレベルの情報を相関させる研究を紹介した。このように、生命を支える異なるレベルの情報を統合する試みが生命科学研究の一つのトレンドになっている。しかし、ヒトの高次脳機能となると、さらに刻々入ってくる刺激により連続的に変化する脳回路の活動状態という情報を重ねる必要がある。昨日の論文はワクワクして読んだと言ったが、脳回路まで重ねる研究となると、まだハラハラ心配しながら読まざるをえない。それでも、急速に整備が進む脳の遺伝子発現やエピゲノムデータベース、正常から異常まで横断的に集めた膨大なゲノムデータベースを駆使して、この難題にチャレンジする研究が増えてきている。
  今日紹介するロンドンのインペリアルカレッジとデユーク大学シンガポール分校からの論文はこのトレンドの典型と言える。タイトルは「Systems genetics identifies a convergent gene network for cognition and neurodevelopmental disease (システム遺伝学によって認知と神経発生異常の遺伝子ネットワークを特定する)」だ。この研究でも、既存の多くのデータベースを利用している。この時、データベースを横断的に利用するための新しいアイデアやソフトがない場合は、「場代」として自分のデータを足す必要がある。このグループは、癲癇の外科的治療の際に切除した122人の海馬の遺伝子発現データを自らの「場代」として提供し、この新しいデータと、これまでのデータベースの比較を重ねて、認知機能や脳発生に関わる重要な遺伝子を発見しようとしている。
  海馬の遺伝子発現データを処理する手法は新しいというわけではなく、相互に関連しあう遺伝子モジュールを特定するソフトを用いている。これにより、24のモジュールを特定した後、死後脳の海馬の遺伝子発現、マウス海馬の遺伝子発現とも共通する2種類のモジュールを海馬を代表するとして選んでいる。このモジュールに含まれる個々の遺伝子の機能分類をした後、ヒトの脳発生での遺伝子発現データベースと照らし合わせて、このモジュールが海馬ではなく、大脳皮質全体を代表するモジュールで、発生過程で発現が上昇することを確かめている。次に、様々な認知異常についてのゲノムデータベースと照合して、抽出した二つのモジュールが確かに認知異常と関連する遺伝子と相関することを示し、最後に統合失調症、自閉症スペクトラム、脳発生異常、精神遅滞などと明確に関わることがわかっている親子ゲノム解析に基づく一塩基突然変異データベースと照合して、一つのモジュールが、このデータベースで特定された遺伝子を多く含むことを示している。その上で、新しく集めたデータが、脳機能の理解に重要であると結論している。このように大きなデータを扱う時は、注意しないと自分の仮説にあったデータだけを抽出して示してしまう心配がある。実際読んでいて、彼らが特定したモジュールの正当性を示そうと努力しているだけに思え、では認知に関わる回路とは、遺伝子とは何か、について新しい理解が得られるような気がしない。それでも苦しい挑戦をなんとか続けるうちに、問題が見えてくることもある。今述べたような批判を物ともせず、我が国からも、膨大な脳発生や機能に関するデータベースを駆使して、自説を検証する大胆な若者がもっと出てきてほしいと思っている。

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