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2月4日:DNAとヒストン結合の調節(2月4日号Nature掲載論文)

2016年2月4日
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  今日紹介する論文は一般の方には少し難しいことを断っておく。   2000年を迎える時、ミレニアムプロジェクトがスタートして、再生医学もこのプロジェクトに選ばれた。この時選ばれた理由の一つは、ヒトのES細胞が樹立され、体のあらゆる細胞を試験内で作れる可能性が生まれたことと、クローン羊ドリーに代表されるリプログラミングの研究から、自分の体細胞から多能性幹細胞を造ることが現実になったことによる。スタートしてから10年プログラムディレクターを務めたが、幸い山中iPSのおかげで、個人の体細胞から多能性幹細胞を造るという最初の目標は達成できてしまった。その後現役を引退し論文を眺めていると、ES細胞やリプログラミング技術の登場で、再生医学よりはるかに進展が加速している領域が転写調節研究領域であるように思う。すなわち、分化前、分化後の細胞を大量に扱えることから、転写に合わせてゲノム全体がどう変化するかわかるようになってきた。まさに、全ゲノムにわたる転写状態を哺乳類で調べる研究がES細胞やリプログラミングにより加速したのがわかる。
今日紹介する南パリ大学からの論文はその典型で2月4日号のNatureに掲載された。タイトルは「Genome-wide nucleosome specificity and function of chromatin remodelers in ES cells (ES細胞の全ゲノムレベルで調べた染色体リモデリング因子の特異性と機能)」だ。
   DNAは裸で存在しているわけではなく、ヒストンに巻きついて核内にしまわれている。一つのヒストン8量体に巻きついた単位をヌクレオソームと呼んでいるが、しっかりと巻きつくと転写は抑えられている。このため転写の状態に応じてこのヌクレオソームを外したり緩めたり、あるいは再形成したりダイナミックに調節する必要がある。これに関わるのが染色体のリモデリング因子(CR)だ。この研究では、Ep400, Brd1, Chd-1, -2, -4, -6, -8, 9それぞれのCRがES細胞のゲノムのどこに結合しているかを調べ、この結果とクロマチンの開いた場所、RNAポリメラーゼの場所、ヒストンのメチル化状態、CpGの繰り返し配列などと相関させ、異なる調節様式を受けている転写開始点のどの場所にそれぞれのCRが存在しているのか詳細に調べている。そして、最後に幾つかのCRの発現を抑えた時、染色体がどう変化し、その結果転写がどう変わるかを丹念に調べている。全転写部位でこれを達成するためのインフォーマティックスがしっかりあることがわかって感心するとともに、これまで個々の転写因子について理解して来たことが頭の中で整理がついてくる。結果は膨大で、この紙面で紹介することは難しい。結局それぞれの研究者が自分の問題を持って、この論文を参照するしかないが、この研究で示された詳細な地図を見ると、確かにそれぞれのCRが、ヒストンの修飾様式にガイドされ、転写開始点から見て決まった場所に陣取ることでヌクレオソームを調節し、転写を進めたり抑制したりすることがわかる。また、現役時代、ポリコム因子が結合する場所でオン型のヒストン修飾と、オフ型の修飾が同時に存在するというリチャード・ヤングの論文を読んで不思議に思ったが、この場所ではCRの結合様式が変化して同じ分子が抑制的に働いていることを知ると、なるほどと理解が深まる。   今日紹介した論文は、一般の方にはわかりにくく申し訳ないと思っている。しかし、ある程度の知識のある研究者にとっては結構ワクワクする論文だ。何よりも、これだけの地図が作れるというのに感心する。ES細胞やiPSは確実に基礎研究の変革をもたらすきっかけを提供したことは間違いない。

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