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3月2日:ALS での運動神経障害機構の解明(Nature Medicineオンライン版掲載論文)

2016年3月2日
  ALSは進行性に運動神経が変性する病気で、遺伝的原因が特定されている一部の例を除いて、病気の原因はわかっていない。事実ほとんどの患者さんは遺伝的素因があるわけではなく、突然この病気に襲われる。病因は不明だが、運動神経が障害されるメカニズムについては研究が進んでおり、運動神経自体に変性の原因があるとする説と、運動神経と接しているアストロサイトが運動神経の細胞死を誘導するとする説に集約される。
  ES細胞やiPS細胞からアストロサイトや運動神経細胞を誘導することが可能になり、患者さん由来のアストロサイトが運動神経を障害することが示されてから、2番目の説が優勢になっている様に思える。しかし、なぜアストロサイトが運動神経特異的に障害作用を発揮するのか、現在まで明確な答えは得られていない。
  今日紹介するオハイオ州・Nationwide Children’s Hospitalからの論文はアストロサイトによる細胞障害機構に新しい考えを示した重要な研究に思える。タイトルは「Major histocompatibility complex classI molecules protect motor neurons from astrocyte-induced toxity in amyotrophic lateral scleraosis(ALSのアストロサイトによる運動神経の障害をクラスI主要組織適合抗原が守っている)」で。Nature Medicineのオンライン版に掲載された。
  着想に至ったきっかけはわからないが、この研究はALSモデルマウスやALS患者さんでは、運動神経細胞体でのクラスI組織適合性抗原(MHC)が著明に低下して、神経軸索末端に移動しているという発見から始まっている。まずこの細胞体でのクラスI MHCの低下にALSアストロサイトが関わっているのか調べる目的で、ALSモデルマウスから運動神経とアストロサイトを誘導し共培養する実験系を用いて、ALSのアストロサイトが分泌する何らかの分子が、小胞体ストレスを誘導し、その結果運動神経のクラスI HNCの発現を抑制することを突き止めている。次に、クラスI抗原の低下が直接運動神経障害に関わっているかを調べる目的で、運動神経にクラスI抗原遺伝子を導入し、安定したクラスI抗原の発現によりALSの発症が確かに押さえられることを明らかにしている。すなわち、クラスI抗原の低下が運動神経がアストロサイトによる細胞障害性に連結していることを明確にした。
   クラスI抗原が欠損した細胞を特異的に障害する細胞の代表としてNK細胞が知られており、クラスI抗原によるNK細胞の細胞障害性抑制のメカニズムはよくわかっている。NK細胞はLy49などの表面分子を介してウイルスなどに感染した細胞などを障害するが、この障害性はNK細胞が発現している、細胞障害活性を抑えるKIR分子とクラスI抗原が結合すると抑制される。一方、何らかの原因でクラスI抗原の発現が低下している細胞ではこの抑制が外れて、NK細胞は細胞障害性を発揮する。
   この研究では、同じ機構がALSアストロサイトに存在するのではと目星をつけて、アストロサイトのLy49やKIRの発現を調べ、ALSを発症したアストロサイトだけがこれらの受容体を発現していることを確認している。すなわち、ALSのアストロサイトはNK細胞とほぼ同じメカニズムで運動神経を障害することが明らかになった。最後に、運動神経細胞にKIRと強く結合できるクラスI MHC-F遺伝子を導入すると、ALSアストロサイトによる細胞障害性が抑制されることを示している。
   すなわち、ALSのアストロサイトはNK細胞と同じ細胞障害能力を獲得するとともに、運動神経のクラスI抗原の発現を抑制する分子を分泌することで、抑制を外して、細胞障害性を発揮するという結論だ。
  ALSを発症したアストロサイトがNK細胞と同じ細胞障害性機構を獲得していること自体大きな驚きだが、この結果はこれまで考えもしなかったALSの治療可能性について重要な示唆を与えている。この論文で示された様に、クラスI抗原遺伝子による遺伝子治療の可能性にとどまらず、細胞障害性の受容体を抗体で抑制することも視野に入った。ALS治療に向けた大きな進展でないかと個人的には期待している。

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