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3月3日:突然変異型K-rasが倍になると代謝が変化して治療可能性が生まれる(Natureオンライン版掲載論文)

2016年3月3日
  K-rasの突然変異は膵臓癌、直腸がん、肺がんなど多くのがんの増殖ドライバーとしてガン化に関わっている。もし変異型rasの機能を抑制する薬剤が開発されたら、多くのガンを副作用なしに制御することが可能になると期待されるが、残念ながら未だ変異型ras機能を抑制する薬剤は開発できていない。
  今日紹介するケンブリッジ大学からの論文では、変異型rasが増殖のドライバーとだけで働くだけでなく、細胞の代謝を大きく変化させる引き金になることを示した論文でNatureオンライン版に掲載されている。タイトルは「Mutant Kras copy number defines metablic reprogramming and therapeuticc susceptibilityies (突然変異型Krasのコピー数の違いが代謝の再プログラムを誘導し治療の感受性を変化させる)」だ。
  ほとんどのガンでrasの変異は一方の染色体だけに起こり、細胞の増殖ドライバーとしてはそれで十分だが、なぜかもう片方の染色体にも同じ変異が起こることが知られていた。すなわち、両方の染色体でras遺伝子が変異したほうが細胞の増殖にとって有利であることがわかる。この現象は、両方の染色体でrasが変異して、変異型rasのコピー数が上がるほうが、ドライバー活性が上がると解釈するのが一番自然だが、実際に変異型rasが1コピーある細胞と、2コピーある細胞での増殖を比べても大きな差がない。ではなぜ2コピー持つほうが細胞にとって有利かを調べ、線維芽細胞のras遺伝子の一コピーが変異しているケースと、両方が変異している細胞を比べると、rasが2コピーに増えることで解糖系を始め代謝システムがが変化することを突き止めている。詳細を省いて解説すると、変異型rasのコピー数が2倍になると、そのままrasの下流のシグナルが倍に増強される代わりに、1コピーしかもたない時とは全く違う代謝システムにリプログラムされることがわかった。変化をまとめると、1)ブドウ糖代謝が上昇し、2)活性酸素の発生を調節できる様になり、3)ガンの場合転移が起こりやすいことを示している。   これらの変化は、ガン細胞の増殖に有利に働いていることになるが、著者らはこの性質のせいで細胞が低ブドウ糖状態に弱くなっているのではないかと仮説を立て、低ブドウ糖の条件や、ブドウ糖のアナログを使った受容体の抑制を行い、確かに変異型rasを2コピー持つことでブドウ糖の依存性が高くなり、この経路を抑制すると多くの細胞が細胞死に陥ることを示している。   結局、変異型rasのコピー数が増えることで、細胞自体の増殖は促進するが、代わりにブドウ糖への依存性が高まり、低ブドウ糖で細胞死を起こせることが示されている。    なぜrasのコピー数が2倍になると、この様なブドウ糖代謝システムの大きな変化が起こるのかを明確に示せていないのは残念だが、発ガン遺伝子のコピー数が増えたからといって、必ず悪いサインというわけではなく、場合によっては今日紹介した様に、新しいガンを制御する方法の開発につながることを示している。 次は実際のガンで、同じストラテジーが適用可能か研究が進むことを期待したい。

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