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3月6日:血管が伸びる現場を観察する(Nature Cell Biologyオンライン版掲載論文)

2016年3月6日
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  様々な新しい組織が脊索動物から脊椎動物の進化過程で生まれたが、閉鎖血管系もその一つだ。この系のおかげで、酸素を体の隅々にまで運搬することが可能になり、体のサイズを巨大化させることができる様になった。発生過程で中胚葉から生まれた個々の内皮細胞を一定の場所に集めて並べた後、細胞間接着を誘導して、閉鎖した心臓を中心としたひと続きの袋を形成し、そこから組織の必要性に応じて細胞間の結合を損なうことなく様々な場所で枝を伸長させるメカニズムはいつ見ても驚かされる。この精緻なメカニズムについては、わかっている様でわかっていない。遺伝子ノックアウトが可能になって、多くの分子が関わっていることはわかっても、生きた動物で血管の伸長を観察することは簡単でなく、細胞生物学的解析がどうしても遅れる。そんな中で、この問題を解決するモデルとして期待されているのがゼブラフィッシュだ。発生中の個体は透明で、一個一個の血管内皮細胞をビデオで追跡することが可能だ。
  今日紹介するドイツ・ベルリン、国立心臓血管研究所からの論文は、ゼブラフィッシュを用いた典型的な血管の細胞生物学でNature Cell Biologyオンライン版に掲載された。タイトルは「Blood flow drives lumen formation by inverse membrane blebbing during angiogenesis in vivo (体内での血管形成時、血流により小胞が細胞内に向かって形成されることが、新しい血管腔形成を促進させる)」だ。
  この研究では、血管内皮細胞膜を蛍光標識で観察できる様にしたゼブラフィッシュの背側動脈から体節と体節の間を血管が伸びる場所を狙ってビデオ撮影し、血管伸長で起こる細胞生物学的過程を調べ、新しい細胞学的メカニズムがないか探している。血管が伸長する現場では、すでに形成された動脈壁の一個の内皮細胞の伸長が起こり、その細胞の中を貫く腔が形成された後、細胞同士が融合して血管網ができる過程が見られる。次に、この過程に血流が必要か調べる目的で麻酔薬を用いて心臓の駆動を弱め血圧を下げると、細胞内を貫く腔は形成され始めるが途中で止まって退縮することがわかった。次にこの現象と相関する過程を探索し、伸びている先端の細胞に形成される腔だけに小胞が細胞質側に形成され、この形成に血流が必要であることを発見する。最後にこの小胞形成の意味を細胞学的に探り、この小胞形成が細胞伸長に必要なアクチンとミオシンによる膜の動きを調節して、血流に押される方向へだけ血管腔を伸ばすために必要であることを明らかにしている。すなわち、アクチンの存在しない膜の弱い部分、すなわち血管腔が伸びる場所を常に1箇所だけ維持するために、余分なアクチンの少ない場所ができてしまうのを、この小胞形成で抑えていることを明らかにしている。   血管形成の研究に今最も必要なのが精緻な細胞学であることがよくわかるいい論文だと思う。

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