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3月8日:ガンのネオ抗原(Scienceオンライン版掲載論文)

2016年3月8日
   プレシジョンメディシンについては何回も紹介したが、個々の病気に関する、主にゲノムの分析結果に基づいて治療を行い、根治を目指す治療だ。例えば、今我が国では抗PD-1や抗CTLA4抗体を用いた免疫チェックポイント阻害治療に注目が集まっているが、現在のところ治療を始める前に結果を正確に予想することはできない。癌に対する免疫が成立していないと、この治療も無力だ。今日紹介する英国フランシスクリック研究所からの論文は、肺ガンについてガンに対する免疫成立を正確に予想するための方法を模索した研究でScienceオンラン版(Science Express)に掲載された。タイトルは「Clonal neoantigens elicit T cell immuneoreactivity and sensitivity to immune checkpoint blockade (ガンクローンに発現するネオ抗原がT細胞免疫とチェックポイント阻害治療の感受性を決める)」だ。
  ガンのエクソーム(タンパク質に翻訳されるゲノム部分の配列)が調べられるようになり、肺ガンでは直接発ガンに関わる変異だけでなく、多くの分子に突然変異が存在することがわかっている。この変異分子が実際にはガン特異的な免疫反応を誘導するネオ抗原として働く。この研究では、腺ガンと扁平上皮ガンのエクソーム検査からネオ抗原として働き得る抗原を探索し、1)個々のガンで平均300近く特定できる、2)ネオ抗原の候補の数が多いほど予後が良い、3)ガン内の多様性が増大するとネオ抗原が多く見つかっても予後が悪い、4)扁平上皮ガンではクラス1組織適合性抗原の発現が低く、ネオ抗原が存在しても免疫が成立しない、ことを明らかにしている。
  ここまではこれまでに報告されていた結果を確認したものだが、この研究では多様性の異なる腺ガンを選び、周りに浸潤しているリンパ球ネオ抗原候補への反応を調べ、実際のネオ抗原としてはたらいているペプチドを特定し、次にこのペプチドと組織適合性抗原とを用いて浸潤リンパ球を染色している。この結果ほとんどのガン細胞が同じネオ抗原を発現している場合、ほとんどのキラーT細胞活性がその抗原に集中するが、ガンの多様性が上昇すると様々な抗原に分散してキラーT細胞が誘導されることを示している。また、ネオ抗原で染色できる浸潤T細胞がPD1抗原をが発現することを証明している。実際の臨床で応用するにはまだまだだろうが、ここまで徹底すればガンのネオ抗原、ガンに対する免疫反応、そしてその質を完全に把握できることを示している。
  ただそこまでいかなくとも、この結果からネオ抗原を指標に見たときガンが多様化していないことが、有効な免疫反応が起こり、チェックポイント阻害治療が効く重要な条件であることがわかる。実地臨床でこれを確かめるため、メラノーマでのチェックポイント阻害治療について調べ、確かに多くのネオ抗原を発現しており、ガンの多様化が進んでいない場合のみ抗PD1や抗CTLA4抗体治療が聞くことを示している。
  少なくともガンのエクソーム検査をまず行ってからチェックポイント阻害治療を行う必要性を強く示唆する結果だが、我が国のエクソーム検査の現状を見ると、ほとんどの医療機関では当分プレシジョンメディシンからは程遠い、当たるも八卦型の治療が行われ、無駄な医療費が空費されるのだろうと思う。コンプリートジェノミックスの知り合いに聞くとガンのエクソーム検査はだいたい10万円前後に収まってきているようだ。だとすると、抗体治療薬の何分の1のコストで投与効果を予想できることになる。   PD1が開発された国で、最もプレシジョンメディシンから外れたガン治療が行われるとは情けない。

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