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3月14日:場所記憶シグナルの複雑性(3月10日号Nature掲載論文)

2016年3月14日
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  2014年のノーベル賞を受賞した脳内の場所記憶に関する研究は、詳細はともかくとして、専門外の人間にも問題がわかりやすく、「なるほど」と結果を楽しむことができる。また手法も、同時に何百もの神経細胞を行動と共に記録してコンピューター解析で相関を調べる、ビッグデータ解析の走りが使われており、21世紀的雰囲気がある。
   いずれにせよ、頭の中に地図があることで行動の安心が得られるのがよくわかる。この記憶は寝ている時にも維持されないと、夜中にトイレに行くのに困ることになる。この記憶維持には、休息中、あるいは睡眠中に定期的に興奮を繰り返すことで場所記憶が維持されるとされてきた。今日紹介するカリフォルニア州立大学サンフランシスコ校からの論文は、これまで知られていた場所記憶細胞やネットワークとは全く違った反応を示す細胞を海馬のC2領域に発見したという論文で3月10日号のNatureに掲載された。タイトルは「A hippocampal network for spatiall coding during immobility and sleep (静止中や睡眠中に場所をコードする海馬ネットワーク)」だ。
  研究では新しい手法が用いられているわけではなく、これまでの場所神経細胞の研究と同じように迷路を移動中、休息中、そして睡眠中に、海馬のCA1,CA2,CA3領域に存在する細胞の神経興奮を同時記録し、あとで詳しく分析している。これまで報告されているように、すべての領域で、迷路課題に取り組んでいる時、場所に応じた神経興奮が記録され、また同じ細胞が休息中、あるいは睡眠中に短く興奮しておそらく記憶を維持しているのが確認される。
   ただ、この研究ではこのネットワークに加えて、このネットワークが興奮する時に逆に興奮が低下している神経細胞集団をCA2領域に発見し、この細胞の機能に注目して研究を行っている。CA2Nと名付けたこの集団は、動いている時にはあまり興奮せず、動きが遅くなったり休んだりしている時に興奮し、興奮の頻度にも特徴がある。また、それぞれのCA2N型神経細胞は、迷路で褒美にありついた時の場所の記憶と相関している。ただこれはCA2領域特異的ではなく、他の領域にもCA2Nと相関して興奮する神経が見つかることから、特定の場所に応じて興奮するネットワークに対して、休息中にのみ場所情報を提供するネットワークが存在することを示唆している。言って見れば、動と静に応じたネットワークのセットで場所記憶を維持していることになる。面白いのは睡眠中で、記憶維持のために場所細胞が興奮する時、CA2Nネットワークが興奮して、睡眠中の場所細胞興奮を抑えることを発見している。
  結果はこれだけで、実際このネットワークが何をしているのかはまだ推論に過ぎない。将来、このネットワークだけを抑制する方法を開発して何が起こるのかなどが研究されるだろう。しかし、陰と陽、動と静がセットになって記憶が維持されるのはなんとなく理解できる。
  旅行中のホテルで目が覚めて、今どこにいるのか混乱することがあるが、迷路のパターンをマウスの睡眠中に変えてしまうとどうなるのか、想像が尽きない面白い領域だ。

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