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3月15日リンパ節での抗原に対するB細胞の反応を見る(3月4日号Science掲載論文)

2016年3月15日
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   抗原で刺激されると、B細胞はリンパ組織の胚中心と呼ばれる領域で選択され、抗原とより高い親和性で反応できる抗体を進化させる。この過程は免疫反応の中でも最もよく研究されていると言っていいだろう。元々臨床をやめて基礎研究を始めた時、抗体遺伝子の再構成と突然変異と選択による抗体親和性の進化について研究しているRajewskyの研究室に留学したので、今は完全に免疫学から離れていても、この分野は興味を持って見てきた。それでも、この胚中心でのリンパ球の選択過程を目で見ることができるとは考えたことがなかった。今日紹介するマサチューセッツ工科大学の論文は、胚中心で起こるB細胞の選択過程を可視化する方法を示した面白い研究で、3月4日号のScienceに掲載された。タイトルはズバリ「Visualizing antibody affinity maturation in germinal centers(胚中心での親和性の成熟を可視化する)」だ。
  この研究ではB細胞が活性化され胚中心に入る前後から誘導されるAIDという遺伝子にタモキシフェンを投与時にCreリコンビナーゼが活性化される遺伝子を導入している。これにより、胚中心に入ってきたB細胞を選択的に標識できる。普通標識には一種類の蛍光標識遺伝子を用いるが、この研究ではそれぞれの染色体に4種類の蛍光遺伝子を導入し、そのうちの一つがCreによって活性化されるように設計している。これにより、それぞれの染色体でどれか一つの色が選ばれる。染色体は2本あるので、これにより10種類の異なるカラーでB細胞クローンを標識することができる。この方法を着想し、実際に使えるようにしたのがこの研究の全てだ。
   この方法で、抗原刺激後5日目、胚中心で選択が始まる少し前にタモキシフェンを注射してB細胞を標識し、その後の過程を見ると、標識後3日目では様々な色の蛍光を発するB細胞からできていた胚中心が、時間とともにクローン選択され、特定の蛍光で標識されたB細胞によって占められる過程がわかる。
  とは言っても、すべての胚中心が一種類のクローンによって占有されるというわけではなく、反応が終わった時点でも何種類かの蛍光を発するB細胞クローンが混じり合っている胚中心も存在している。細胞を取り出して抗体遺伝子の配列を調べ、作っている抗体の抗原への親和性を調べると、親和性は間違いなく上昇して進化が進んでいる。また、同じ胚中心に存在するB細胞は、異なるカラーで標識されていても近い関係にあることも分かった。
   以上の結果から、AIDが誘導されタモキシフェンが効果を発揮するタイミングや、T細胞との相互作用のタイミングなど、様々な要因で、B細胞クローンは胚中心内でも、親和性上昇とは別に多様化してしまうようだ。要するに、胚中心は抗原への親和性を上昇させる場所であることは間違いない。一方、B細胞の細胞内過程への影響は、同じ胚中心でも多様性があるため、蛍光カラーが必ず一種類になるわけではないが、たまに、一つのクローンが普通より早い速度で拡大すると、胚中心が一つのクローンだけで占有されることになるようだ。これらの結果は、少し予想とは違ったが、おおむねこれまで何十年かの研究で蓄積された考えに沿った結果が出ていると言えるだろう。しかし、この動きを全部見ることができるとは感激だ
  私事になるが、ドイツ留学中に使っていた懐かしいNP抗原やB1-8というイディオタイプの名前が出て当時を思い起こすことができた楽しい論文だった。

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