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3月20日:古代人DNA解読の限界を極める(3月14日号Nature掲載論文)

2016年3月20日
   以前このホームページで紹介したが、マイケル・クライトンが小説ジュラシックパークで描いた琥珀の中の生物からDNAを採取して解読する話は、科学的にありえないことが示されている(http://aasj.jp/news/watch/480)。しかし、この小説が出版されたあと、このアイデアに影響された研究者から、琥珀の中の生物のDNA解読の論文がトップジャーナルに相次いだのは、研究者の強い思い込みが科学を簡単に間違った結論に導くことを教えてくれた(http://bylines.news.yahoo.co.jp/nishikawashinichi/20151102-00051047/)。 現在、時間によってDNAが被る物理化学的変化については理解が進み、一定の割合でDNA情報が時間とともに失われることがわかっている。従って、どの年代の遺物まで解析を拡大できるのか、慎重な研究が続いている。今日紹介するライプチヒ・マックスプランク人類進化学研究所からの論文はスペイン・カスティーヤ地方のアタプエルカで発見された中期更新世の人類の骨のDNAを解読できるかどうかの挑戦についての論文で3月14日号のNatureに掲載された。タイトルは「Nuclear DNA sequences from the middle Pleistocene Sima de los Huesos hominins (Sima de los Huesosで発見された中期更新世時代の人類の核DNAの配列)」だ。
  Sima de los Huesosではこれまで中期更新世時代の人類の骨が40本以上発見されている。私たちホモサピエンス(HS)の祖先がアフリカからユーラシアに移動した7−10万年前よりはるかに古い40万年前の原人と推定されている。すなわち、もう一つの人類デニソーバ人とネアンデルタール人が別れた40万年前後に一致する。事実ここで出土した骨の特徴は、ネアンデルタール人に似ていると示唆されていた。ところが最初に解読されたミトコンドリアDNAは、スペインを含む西ヨーロッパに居住していたという証拠の全く見つからないデニソーバ人により近縁で、ネアンデルタール人とデニソーバ人の関係についての大きな謎が残った。そこでこの分野のパイオニア、ペーボさんたちは核DNAの復元に挑戦していた。論文のほとんどは実験上の困難の記載にさかれている。要するに、どれが骨の持ち主のDNAかを慎重に検証する作業の繰り返しだ。ようやく4万—200万bpの原人由来DNA配列を特定し、このうち100万bp以上の解読ができた配列を用いてネアンデルタール人、デニソーバ人、現代人のゲノムと比較、結局この場所から出土する原人はネアンデルタール人に近いと結論している。一方、新しく解析された原人もミトコンドリアはデニソーバ人に近かった。このミトコンドリアDNAと核DNAの矛盾については、ヨーロッパのネアンデルタール人が、アフリカから移住してきた母のミトコンドリアに由来しているからではないかと説明している。このように50万年前まで解析が拡大すると、さらに人類の相関図が詳しくなると期待できる。ペーボさんたちの頭には何万年前が標的になっているのだろう?   折しも3月17日Scienceオンライン版に掲載された同じ研究所からの論文では、現代人ゲノムの中のネアンデルタール人、デニソーバ人由来の遺伝子を拾い出して再構成する研究が行われている。すでに、現代人に散らばるネアンデルタールの遺伝子は、1300Mb、デニソーバ人の遺伝子は300Mb拾い出されてマッピングされている。その結果、ネアンデルタール人と我々の祖先が何回かにわたって交雑を行っていること、またメラネシアの人たちにはネアンデルタール人とデニソーバ人両方の遺伝子が残っていることが確認されている。他にも、知能に関わるネアンデルタール人遺伝子は現代人から完全に消えているようだ。我々とネアンデルタール人との戦いは、頭脳勝負だったのか、体力勝負だったのか興味は尽きない。    この研究所の発展を見ると、つくづく羨ましい。

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