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3月21日:B型肝炎ウイルスの強さの秘訣(3月17日号Nature掲載論文)

2016年3月21日
  まだ臨床医をしていた時、人工透析のシャントを外して自殺未遂を図った患者さんからB型肝炎をもらった。今でもこの時の思い出は鮮明だ。ナースから呼ばれて病室に駆けつけると布団が血の海で、カルテを詳しく見る間もなく止血、輸液、そして最後に輸血をはじめ、処置が済んでほっとしてからカルテを見るとHB陽性だった。当時は手術処置以外手袋をする習慣がなく、やばいなと思っていたら、2ヶ月半後急性肝炎になった。幸い慢性化せず今もアルコールを楽しめるが、医療が危険と隣り合わせだということを思い知った。
  B型肝炎ウイルス(HBV)は極めて複雑な生活サイクルを持つ。原則的に1本鎖DNA で、これが核内で安定な環状の2本鎖DNAを形成し細胞内に長く維持され、そこから新しいウイルスを作るためのRNAを転写し続ける。この時HBVは、染色体外に独立して存在するウイルスの転写を優先するようホストの転写システムを変化させる。ウイルスゲノムがホストゲノムに組み込まれるとこの転写促進は消失することから、ホストゲノム外にあるエピゾームの転写だけが促進される。この現象にウイルスの持つHBx分子が関わることはわかっていたがメカニズムの詳細はわかっていなかった。今日紹介するジュネーブ大学からの論文はHBxの作用メカニズムを明らかにした研究で3月17日発行のNatureに掲載された。タイトルは「Hepatitis B virus X protein identifyies the Smc5/6 complex as a host restriction factor (B型肝炎ウイルスのXタンパクはSmc5/6分子を宿主のウイルスに対する防御因子として特定し処理する)」だ。
  これまでの研究でHBx分子はホストのDBB1と結合しタンパク分解システムを利用することで、ホスト内の邪魔な分子を処理することがわかっていた。この研究は、この処理される分子とは何かを検討している。方法としては、DDB1とHBxが結合しているキメラタンパク質を作り、これに結合する分子を生化学的に調べ、Smc5とSmc6を中心に複合体を形成している分子が、このキメラタンパクと結合していることを発見した。即ち、肝炎ウイルスにとって邪魔な分子がSmc5/6複合体で、HBxはこれと結合してホストのタンパク分解システムを使って分解していることがわかった。
  Smc5/6はもともとDNA切断による修復システムとして働いており、また核小体でのリボゾームDNAをRAD52分子から守っていることが知られている。B型肝炎ウイルスにとってどの機能が邪魔なのかはっきりしないが、Smc5/6を欠損させた細胞では、やはりエピゾーム型のウイルスゲノムの転写が上昇するので、この複合体をHBxが標的としていることは間違いないようだ。おそらく、Smc5/6複合体昨日の研究に取っても面白い系が出来たと思う。
  RNAウイルスであるC型肝炎では完治のための薬剤が開発されたが、B型肝炎を完全に除去する治療薬はない。この研究は新しい治療標的を示せた点で重要だ。しかし、またウイルスのスマートな戦略を思い知った。

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