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4月13日:ガンのチェックポイント治療を確実にする(J.Clinical Oncologyオンライン版掲載論文他)

2016年4月13日
   最近は抗PD-1抗体などのチェックポイント療法が、ガン治療の話題の中心になった感がある。これは治療成績をみれば当然で、薬剤耐性細胞の出現が避けられない分子標的療法と比べると、効く場合はガンを長期に抑えることができる。またガン治療の究極のゴール、ガンの根治の可能性があるのは、現在の所キメラT細胞受容体を用いた治療も含め、免疫療法しかないと考える人も多い。ただ、高額な抗体を投与し続けるのかがチェックポイント治療の議論の中心になってしまっていることからわかるのは、抗PD−1抗体単独では根治が可能と言い切れない点だ。また、例えば日本でも認可されようとしている肺がんで見ると治療に反応するケースは20%程度で、しかも治療前にその効果を予測することができない。このため世界中でチェックポイント治療を確実にするための方法の開発が進んでいる。
  これまで紹介してきたように、チェックポイント治療はガンに対する免疫が成立しないと効果がない。このため、研究の柱はガン抗原に対する免疫反応を高める方法の開発だ。この方向には、ガンのネオアンチゲンの特定、ワクチンの開発、免疫成立の補助法開発などがある。
   もう一つの柱は、ガンに対するキラー細胞の機能を直接高めるための研究で、多様な可能性に注目した研究が行われている。
  最初に紹介するのは、J Clinical Oncologyオンライン版に掲載されたフロリダモフィットガンセンターからの論文「HDAC inhibitors enhance T cell chemokine expression and augment response to PD-1 immunotherapy in lung adenocarcinoma(HDAC阻害剤はT細胞のケモカイン発現を高めて肺腺がんに対する抗PD-1免疫治療効果を高める)」だ。この研究では、ガンの周りのT細胞の浸潤が拡大するためには、ガンに到達したキラー細胞からケモカインがでて、もっと多くのキラー細胞をガンに集中させることが重要と考え、T細胞のケモカイン産生を誘導する薬剤のスクリーニングを行い、romidepsinと呼ばれるヒストンアセチル化阻害剤を特定している。詳細は省くが、この薬剤と抗PD-1抗体を組み合わせると、それぞれ単独より高い効果がで、場合によってはガンが完全に消滅することを報告している。
  次のテキサスサウスウェスタン大学からの論文「Facilitating T cell infiltration in tumor microenvironment overcome resistance to PD-L1 blockade (ガンの微小環境へのT細胞浸潤を促進するとガンのPD-L1抗体に対する抵抗性を克服できる)」は、キラー細胞の浸潤を高めるため、今度はT細胞自身ではなく、ガンの周りのストローマ細胞を刺激してケモカインを分泌させようとする研究で、Cancer Cellの3月14日号に掲載されている。この論文では、ガンに発現するEGF受容体に対する抗体と、ストローマ細胞の炎症反応を刺激するLIGHT分子を合体させた分子を投与して、ガンの周りだけに強い炎症を誘導する方法を開発している。これだけでもガンに対して強い効果があるが、これに抗PD−1抗体を加えると、ガン局所へのT細胞浸潤が上昇し、ガン抑制効果が格段に上がるという結果を示している。
    最後に紹介する上海の中国科学アカデミーの研究所からの論文「Potentiating the antitumour response of CD8+ T cells by modulating cholesterol metabolism (CD8陽性T細胞の抗がん反応をコレステロール代謝を変化させて高める)」は、キラーT細胞自体の活性を高めるという少し毛色の変わった研究で3月31日号のNatureに掲載されている。このグループはもともとはコレステロール代謝を研究していたのだろう。コレステロールのエステル化に関わる分子ACAT1の作用をT細胞で調べている時、T細胞刺激でこの酵素の発現が高まること、そしてこの分子の阻害剤がT細胞のキラー活性を高めることを見つけている。要するに、T細胞が活性化されると、コレステロール代謝システムが変化し、反応が強すぎないようにするメカニズムが存在し、これを抑えれば免疫反応を強めることができるという結果だ。使われた阻害剤はすでに高コレステロール血症の治療で安全性が確かめられているらしく、すぐに利用可能な薬剤のようだ。ただ、前2つの論文と比べると、効果は強くない。
   もちろん私が読んだのはほんの一部だと思うが、この2週間論文に目を通すだけでも、PD-1治療を確実にするための研究が盛んに行われているのがわかる。おそらくその中から、ついにガンの根治をもたらすプロトコルが開発されると期待している。

  1. 橋爪良信 より:

    romidepsinヒストンアセチル化阻害剤について少し。

    藤沢薬品工業(現アステラス)で開発中だった注射用抗がん剤FK228としてケミカルバイオロジー領域ではお馴染みの化合物です。米グロセスター社が全世界で独占的に開発、製造、販売するライセンス契約を締結して、皮膚のT細胞のリンパ腫への適応で2010年に上市されました。

    1. nishikawa より:

      情報ありがとうございます。このような研究が、もっと我が国の研究者から多く出てきてほしいと思います。

  2. 中原 武志 より:

    抗PD-1抗体などのチェックポイント療法が、がん治療の決め手となってほしいものですが、肺がんの場合でも効く人が約20%だということだから、決め手とは言えませんね。
    今後の課題は、効く人と聞かない人を事前に探し出せる方策と、残りの80%の人に効果のある新たな抗体が探しだせれば・・と願っています。抗PD-1は抗がん剤でなく、免疫薬ですが、巷の高額な免疫療法が今も大手を振ってコマーシャルを流しているのに愕然としています。
    免疫薬も高額すぎて、命を金で買える人しか使えないという
    ジレンマが残りますね。薬価問題を国民的に議論する必要があるように考えています。

    1. nishikawa より:

      PD-1は保険収載されています。患者さんの問題より、保険財政の問題が大きくクローズアップされてきました。

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