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4月20日:ガンからわかる突然変異の起こり方(4月14日号Nature掲載論文)

2016年4月20日
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   一部の例外を除いて発ガンにはゲノムに何らかの変異が必要だ。これまでの研究では、コストやデータ処理のしやすさなどから、ガンの突然変異の研究は、タンパク質に翻訳されるゲノム部分の核酸配列、エクソームに限られてきた。しかし、ガンについて全ゲノムの核酸配列データも着実に蓄積されていた。ただ、エクソームと異なり、翻訳されない部分の変異については解釈が難しい。これを打破するため、ENCODEと呼ばれる遺伝子発現、エピゲノム、染色体構造を全ゲノムレベルで調べる研究が進み、データが蓄積してくると、少しづつ非翻訳部分の突然変異の意味を想像することが可能になってきた。
   今日紹介するオーストラリア・プリンスオブウェールズガンセンターからの論文も、ガンの全ゲノム配列から発がん過程に関わる情報を引き出そうとする研究の一つで、4月14日号のNatureに掲載された。タイトルは「Differential DNA repair underlies mutation hotspots at active promoters in cancer genome (ガンゲノムに見られる突然変異の多発部位の背景にはDNA修復の部位による差が存在する)」だ。
   これまでガンの突然変異の起こり方の解析から、ほとんどのガンでDNA複製時のエラーを修復する際に、最も突然変異が誘導されることがわかっていた。この研究は全部で1161のガンについて蓄積されてきた全ゲノム解析を分析し、プロモーター領域に突然変異が集中する一群のガンが存在することを見つけている。この群にはメラノーマ、アストロサイトーマ、肺がん、卵巣がん、食道癌が含まれる。一方、修復機構の異常からはじまる大腸癌ではこの傾向はない。
  次に、どのプロモーターに変異が集中しているのか調べると、染色体が開いており、活発に転写されている遺伝子の転写開始点の少し上流に突然変異が集中していることが明らかになった。もともと、転写因子などの分子がDNA上に乗っていると、修復機構が働きにくいことが知られているので、DNA合成時の修復の起こる場所と突然変異の起こる場所との関係を調べ、突然変異の多い場所には修復酵素がアクセスしにくいことも明らかにしている。他にも、紫外線による突然変異を修復する酵素欠損の患者についても調べ、他の修復異常が存在すると、全く異なる突然変異の分布が起こることも示している。
   これだけなら私でも予想がつく話だが、気になるのがメラノーマや肺がんのように環境からの発がん因子が関与するガンで特にこの傾向が強い点だ。このことは、紫外線やタバコによる突然変異の修復も、ほぼ同じ機構を使っているため、転写因子が集まっているプロモーターで特に修復が起こりにくいことを示すのだろう。いずれにせよ、なぜタバコや紫外線が危険かということがはっきりわかる。実際ガンあたりの全突然変異の数を調べると、肺がんが46000箇所、メラノーマが66800箇所と群を抜いている。
   この結果からわかるのは、最も必要とされている遺伝子のプロモーターに突然変異が蓄積することだ。進化を考えると、変異が使っている遺伝子に起こる点はなかなか面白い。しかし、これほど突然変異が蓄積しても、遺伝子発現は思いの外安定に維持されている。私たちのゲノムは小さな変化には抵抗性があるようだ。このようにこの論文の結果は、ガンだけでなく進化一般を考えるためには役にたつと思う。

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