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4月23日:高齢者が頑固な理由?(4月20日号Neuron掲載論文)

2016年4月23日
   高齢者の脳と聞くと、すぐ認知症と答えが返ってくるほど、記憶の問題が高齢者の脳機能研究の中心だ。しかし、自分が年をとってわかるのは、脳の老化の影響は記憶の低下にとどまらないことだ。特に、一つの問題を新しい方向から考えるのが苦手になる。これまでに身についたパターンが新しいパターンの行動の邪魔をする。要するに変化についていくのが苦手になる。これを頑固と言うのだろうか?
   私自身、変化に適応する能力の低下をなんとか押し留めたいと思う気持ちで毎日多くの論文を読むのを日課にしている。もちろん比べる対照がないので、効果があるかどうかはわからない。
   今日紹介するオーストラリア・クイーンズランド大学からの論文を読んで、まさにこの問題に迫ろうとしているグループのあるのを知って驚いた。論文のタイトルは「Aging-related dysfunction of striatal cholinergic interneurons produces conflict in action selection (高齢化による線条体コリン作動性介在ニューロンの機能不全により行動決定時の葛藤が起こる)」だ。
  この研究では好みの餌を得るための「レバー押し課題」を学習させた後、レバーの位置を逆さまに設定した新しい課題を行わせ、新しい状況への対応能力を調べている。この課題の場合、古い学習を抑えて新しい状況に対応することが要求されるが、老化マウスではこれがほとんどうまくいかない。なかなかうまく考えた課題だ。
   次に、この古い記憶を抑える機能がどの脳回路により媒介されているかを調べているが、最初からこの回路が視床の束傍核から線条体のコリン作動性介在ニューロンへの投射だと狙いをつけている。そして、老化によりこの回路の興奮性が低下すること、また老化すると、介在ニューロンの興奮が規則的なワンパターンの興奮になって、若い動物の不規則な興奮パターンが消えてしまうことを見つけている。
   次に、線条体でのコリン作動性神経を選択的に除去できる遺伝子改変マウスを用いて、若い動物でもこの回路が欠損すると、新しい状況に対応することが困難になることを示している。更に複雑な課題を設計してこの結論の妥当性を確認しているが、詳しく解説する必要はないだろう。
  要するに年をとると視床束傍核からの投射によって活性化される線条体介在ニューロンの機能が低下し、古い記憶を抑えることが困難になり、結果古い記憶が新しい学習を阻害するというシナリオだ(一般の方はこれら脳内の解剖学用語は気にしないでいい。要するにこの行動を媒介している回路が特定された)。
   初期の認知症治療に脳内アセチルコリンを上昇させるアリセプトが効果があるが、この研究でも介在ニューロンの興奮を高めて、新しい変化についていく能力が回復できるか調べているが、これはうまくいっていない。実際、老化マウスの介在ニューロンも興奮はしているが、パターンに変化がないのが高齢化による変化だ。従って、興奮を高めただけではうまくいかないのかもしれない。残念ながら、この研究からは新しい治療法は発見されなかった。しかし、頑固さ(?)に関わる回路は見つかったので、なんとかこの回路を若返らせる方法を発見してほしい。
   読んでみて一番印象に残ったのが、老化に伴って、介在ニューロンの興奮パターンが硬直した決まったパターンをとるようになることだ。逆に若いマウスの方は不規則で自由なパターンだ。これが老化による硬直かと理解して我が身を考えると妙に納得するとともに、寂しさがこみ上げた。

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