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4月25日:ガン標的治療のBreakthroughになるか:小銃から機関銃へ(4月21日号Cell掲載論文)

2016年4月25日
 このホームページでなんども繰り返しているように、今、最も待望されている薬剤は、突然変異型のRas分子の阻害剤だろう。例えば現在も手術以外に有効な治療法のない膵臓癌のほとんどはRas分子の変異が引き金になっている。またガンゲノム解析からわかったのは実に2−3割のガンがRas変異を持っているという事実だ。当然、アカデミアも企業も30年以上にわたって活性型Ras阻害剤の開発にしのぎを削ってきたが、現在もなお切り札となる阻害剤は見つかっていない。このあたりの話についてはちょうど1年前紹介した(http://aasj.jp/news/watch/3288)。
   今日紹介するマウントサイナイ医学部からの論文は、ひょっとしたらこの閉塞状況を変えてくれるのではと期待を持たされる研究だ。タイトルは 「A small molecule RAS-mimetic disrupts RAS association with effector proteins to block signaling (Rasとエフェクター分子の会合を阻害するRas分子を模倣する化合物はRasシグナルを抑制する)」で、4月21日号のCellに掲載された。
  この研究の最初の目的は現在骨髄異形成症候群の臨床治験が進んでおり、わが国でもシンバイオ製薬が展開している薬剤リゴサチブの作用機序を明らかにすることだったようだ。まずリゴサチブに結合する分子の解析から、RASと結合する様々なシグナル分子がリゴサチブに結合することを発見する。磁気共鳴を用いた構造解析から、リゴサチブがRas下流のシグナルを媒介するRAF分子のRAS結合領域に結合し、RAFの活性化を阻害することを明らかにしている。すなわち、リゴサチブがRasを模倣する分子として働き、活性化Rasにシグナル伝達分子が結合するのを競争的に阻害することがわかった。後は、この阻害により、伝統的なRas-Raf-Mapkの伝達経路を遮断できること、またPLK,Ral,Pi3Kなどの他のRas結合分子からのシグナルも同様に抑制することを明らかにしている。最後に、活性化Rasによる発がんを抑制できるか、また活性化Rasによりガン化した細胞の増殖を抑制できるかを様々な系で調べ、期待通り効果があることを示している。
   もともとRasの下流で多くのシグナル分子が活性化されており、その一つ一つを標的にしてきた薬剤と異なり、機関銃での掃射のように多くのシグナルを一度に遮断する可能性のある治療法だ。ただ示されたデータを見ると、まだ完全に腫瘍が消失したという結果ではない。私見だが、このようなメカニズムの場合、rasに結合する分子の量など様々な生化学要因が影響するはずで、用量の選択など今後さらに研究が必要だろう。しかし、リゴサチブ投与でがん細胞内の様々な分子のリン酸化が阻害されており、今後大いに期待が持てると思う。例えば膵臓癌などはすぐ試したいところだろう。幸い、この薬剤は骨髄異形成症候群の治療薬としてすでに第3相まできており、副作用が少ないこともわかっている。したがって、臨床研究へのハードルは低い。さらに、Rasではなく、シグナル分子が活性化Rasに結合する部分を標的にするアイデアは、他のシグナルにも使えるだろう。また、同じメカニズムのさらに強力な分子も開発されるように思える。
  もちろんぬか喜びかもしれないが、堅固なRas砦に穴が開いたのではと期待させる。

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