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4月26日:宇宙飛行と脂肪肝(4月20日号Plos One掲載論文)

2016年4月26日
    知識としてはあまり期待しないが、タイトルを見て「何々?」と論文に目をとめることがある。今日紹介するコロラド大学麻酔科からPlos Oneに発表された「Spaceflight activates lipotoxic pathways in mouse liver (宇宙飛行はマウス肝臓の脂肪毒性回路を活性化する)」という論文はそんな例だ。この論文の場合、宇宙飛行というタイトルに目が止まる。しかし、多くの場合論文としては不完全なものが多い。紹介する前に言うと、この論文も例に漏れない。
   コロラド大学と言ったが、かなり多くの機関から研究者が参加している。実験は極めて単純で、純系マウスを宇宙飛行に連れて行き、アトランティスで13日ほど滞在させて、地球に帰還後、肝臓に障害が出ていないか調べている。なぜこんなことをするのかというと、宇宙飛行で糖尿病様症状が出るからだという。しかし、人間が宇宙に行って何十年もになるのに、わざわざまたマウスで実験をする必要があるのか、もっと人間で詳しく調べる方が実用的でないか疑問だ。
  詳細は省くが、幸い(というのは不謹慎だが)宇宙に連れて行くと、肝臓の脂肪代謝に異常が認められ、組織学的にも肝臓に脂肪が蓄積する脂肪肝が誘導され、さらには細胞外マトリックスの産生が上昇する。大げさに言うと非アルコール性脂肪肝の危険性が高まるという結果だ。この症状に一致して肝臓内のレチノイン酸の濃度が低下し、また糖脂肪代謝に関わるPPARαの発現が大きく上昇することも突き止めている。
   この結果自体に文句を言う気はないが、実験としてはあまりにもひどい研究だと思う。まず、微小重力の影響を調べたいのか、宇宙飛行全過程の影響を調べたいのかがはっきりしない。宇宙飛行だと、最初打ち上げで強い重力を感じ、その後微小重力で過ごした後、地球帰還という3種類のストレスが存在する。人間なら打ち上げと帰還のストレスについては認識できるが、マウスにとっては何が何かわからないだろう。もし本当の目的が微小重力の影響なら、マウスは宇宙空間で屠殺するべきだ。それでも打ち上げのストレスは除外できない。要するに、この変化の引き金を特定できない様に実験が計画されている。いくら簡単にできない実験だからといって、やはり実験として健全なものでないと論文発表しても意味がないと思う。
  わざわざこの論文を選んで文句を言っているのは、この研究には、興味より先に公共事業的助成金があるという匂いがするからだ。おそらく、宇宙飛行の影響について予算が組まれており、とりあえず論文を出せばお金をもらえるという構造ができているのだろう。だからといって、いい加減な研究をしていいわけではない。重要なのは研究者がそれに甘えないという意志だろう。予算が先にある研究は研究者にとっても本当はありがたい。ただ、それに甘えてしまうと、予算のための公共事業と同じで、科学者としては劣化していくだろう。    しかし、競争の国アメリカでも、予算消化のための研究があることがわかる論文だった。今日を例外として、これからも紹介して意味のある論文を選んでいこうと改めて決意した。

  1. 橋爪良信 より:

    無重力状態が人体に及ぼす影響を研究する宇宙医学は、いかに人類に貢献するか? 宇宙開発に巨額の費用を賭ける意義を説明するには、科学者は必ず答えられなければならないポイントです。

    そこで話題を一つ!

    骨吸収と骨形成に関連するBMPシグナルに注目しています。火星まで片道6ヵ月。筋肉の衰えと骨吸収を抑えるためには、運動+骨吸収を抑制する薬剤が必要です。これまでの骨形成に関与するBMPOシグナルの研究からヒントが得られています。ISSでの宇宙実験を通じて、それを証明し、地上では骨粗しょう症の治療薬につなげたいと考えています。

    1. nishikawa より:

      骨を作る方を刺激するより、破骨細胞を標的にする方がいい様な気がしますが、どちらでも安全な薬はunmet needだと思います。

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