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5月12日:気になる2警告(5月号JAMA Neurology+4月29日Scientific Reports)

2016年5月12日
   私がまだ学生だった頃は、水俣病、イタイイタイ病、四日市喘息など様々な公害病が我が国の深刻な課題だった。幸い、このような深刻な公害は影を潜めたが、それでも仕事や食品を通して、知らず知らずのうちに体が蝕まれているのではないか懸命に調べている研究者たちがいる。今日は、最近私の目に止まったこのような問題を扱う2編の論文を紹介する。
   最初はミシガン大学からの論文でALSの発症に殺虫剤に暴露されることが関わっていないか調べた疫学調査でJAMA Neurologyに掲載された。タイトルは「Association of environmental toxins with amyotrophic lateral scleraosis(ALSと環境毒素の相関)」だ。
   ALS発症に様々な環境汚染が関わる可能性はこれまで調べられてきた。この研究ではこれまで可能性が指摘されて来た殺虫剤暴露とALSの相関について156人のALS患者さんと、対照126人について比べている。暴露の可能性のある職歴についての聞き取り調査で相関を調べると、暴露歴があると発症のオッズ比が5.46と優位に高い。次に相関が認められたのは、鉛暴露によるオッズ比2.0、軍隊経験でオッズ比が2.20だが、やはり殺虫剤に暴露される職業が一番強い相関を示す。
   同じような結果は、これまでも報告されていたようだが、この研究ではさらに踏み込んで、患者さんと対照群の血液中の残留化合物を調べて、例えばcis-Chlordaneの残留が認められる場合はオッズ比5.74, PCB202では1.36-3.27と有意に殺虫剤の残留とALSの相関が見られることを示している。
     この研究だけでChlordaneが悪いと決めつけるのは早計だが、統計学的結果を無視することはもっと間違っている。特に、職歴と残留殺虫剤が必ずしも一致しないことは、環境暴露も可能性があるので、真剣に検討を続けることが重要だ。
   次の論文は天然甘味料として加工食品に広く使われているコーンシロップなど果糖を多く含む食品が、胎盤機能不全につながることを警告するワシントン大学産科学教室からの論文で4月29日Scientific reportsに発表された。タイトルは「Maternal fructose drives placental uric acid producition leading to adverse fetal outcomes (母体の果糖は胎盤の尿酸合成を高め、胎児に悪影響を及ぼす)」だ。
   ブドウ糖と異なり果糖は代謝経路が全く異なる。特に、インシュリン耐性を誘導し、2型糖尿病や脂肪肝につながることや、ATP分解を促し最終産物の尿酸の産生を高めることも知られている。この研究では、妊娠中毒症などの胎盤に関わる障害を誘導するのではないかと考え、妊娠マウスを用いて果糖投与による胎盤の変化を調べている。
  詳細を省いて結論だけをまとめると、
1) 高い果糖を含む食事は胎児の発達を阻害する。
2) 胎盤での尿酸合成を高果糖食により誘導される
3) 高果糖食は胎盤の脂肪蓄積と酸化ストレスを誘導する。
4) キサンチンから尿酸への経路に関わるキサンチン酸化酵素を阻害すると、胎盤の障害や胎児の発達障害を抑えることができる。
5) 人間の妊婦さんの血中果糖濃度と胎盤の尿酸濃度は相関する。
という結果だ。
  我が国の現状は把握していないが、米国ではコーンシロップなどの使用制限を訴える運動が進んでいると聞く。天然の物質も、人間の偏った意図に基づいて使われると、問題を引き起こす例といえるだろう。
  このような研究に常に耳を貸すことの重要性を実感している。

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