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5月26日:mTOR阻害剤:一兎より二兎を追え(Natureオンライン版掲載論文)

2016年5月26日
   セリン/スレオニンキナーゼの一つmTORは、様々なシグナル伝達経路と関係しており、一種のシグナル中継のハブとして多くの細胞の増殖や代謝に関わる重要な分子だ。正常の細胞で働いていても、一般の抗がん剤と同じで、増殖性の強いガンに対する薬剤になる。実際mTOR阻害剤が開発され、乳がんや腎癌に使われている。ただ例に漏れず、mTOR阻害剤も一定期間の後必ず薬剤耐性のがん細胞が現れ、効果が失われる。
  今日紹介する米国スローンケッタリングガン研究所からの論文は、薬剤耐性がん細胞の出現を抑えるため、あまりに素朴で驚くアイデアを実現した研究でNatureのオンライン版に掲載された。タイトルは「Overcoming mTOR resistance mutations with a new generation mTOR inhibitor (新世代mTOR阻害剤で薬剤耐性突然変異を克服する)」だ。
  現在使われているmTOR阻害剤には2種類あり、一つはFKB12との結合部位(FRB)を阻害する分子でラパマイシンがその一つだ。もう一つはキナーゼ部分の阻害剤でAZD8055だ。
   この研究では、乳がん細胞をそれぞれの薬剤とともに長期間培養し、耐性を獲得したクローンのmTOR遺伝子配列を解析し、耐性獲得に必要な突然変異を特定している。期待通り、ラパマイシン耐性の場合はFRBに、AZD8055耐性の場合はキナーゼ部位に突然変異が起こっていることを確認される。また、同じ突然変異が治療前のがん細胞に存在することも確認している。すなわち多くの薬剤耐性細胞は、治療前から存在していることになる。
   そこで思いついたのが、最初からそれぞれの部位を阻害してしまえば、ほぼ全てのガンを叩けるのではというアイデアだ。最初から二つの薬を併用するのも考えられるが、mTOR構造解析をすると、両部位は近くにあってポケットを作っている。すなわち、両方の薬剤を結合させてポケットに突っ込んだほうが高い親和性が出ると予想できる。すなわち、最初からラパマイシンとキナーゼ阻害剤を繋いだ2兎を追う薬剤を利用すれば、最初から存在する耐性ガンも含め、全てのガンを高い効率で叩くことができると期待される。
  研究では、二つの薬剤をリンカーで結合させた薬剤RapaLinkを合成し、それぞれの薬剤に耐性を獲得した細胞の感受性を調べている。結果は期待通り、それぞれの薬剤に耐性を獲得したがん細胞を、比較的低い濃度のRAPA-Linkで全て殺すことができている。すなわち両方の薬を別々に投与するより、最初から結合させて使ったほうが、多くの種類のがん細胞を、高い効率で殺せるという結論だ。
   臨床に使うためには、もちろん新しい薬剤として治験を行う必要があるが、素人考えでは、よりmTOR特異的になり、また活性も高いと思える。ただ、逆に正常の細胞への影響も強くなるような気もするが、期待して見守りたい。

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