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6月1日T細胞抗原受容体の刺激とコレステロール(5月17日号Immunity掲載論文)

2016年6月1日
   細胞が周りの細胞や、環境にある様々な分子に反応するために、細胞表面上には様々な分子が存在している。これらの細胞表面分子は、膜貫通部分(TM)を境界に細胞外部分と、細胞内部分に分かれ、細胞外から細胞内へのシグナルを伝えている。こんな当たり前の前置きから始めると、何を今更と言われそうだが、細胞膜を貫いて細胞表面に突き出している分子に必ず存在する短いTM部分が、分子の活性に大きな影響を持つなどとはあまり考えたことはなかった。
   今日紹介するドイツフライブルグ大学からの論文はTM部分にコレステロールが結合することでT細胞抗原受容体(TcR)のシグナル伝達機能が抑えられていることを示す研究で5月17日号のImmunityに掲載された。タイトルは「A cholesterol-based allostery model of T cell receptor phosphorylation (TcRリン酸化のコレステロール結合によるアロステリック効果)」だ。
   これまでTcRにコレステロールが結合していたこと、そしてT細胞表面のTcRには、刺激を受けにくい静止状態(TcRr)、すぐに刺激を伝達するプライム状態(TcRp)の2種類が存在していることもわかっていたようだ(私自身にとっては初耳だが)。著者らはこのTcRr とTcRpのスイッチがTM部のコレステロール結合にあるのではないかと着想し、TcR刺激前後でコレステロールと結合したTcRの割合を調べ、刺激によりコレステロールと結合したTcRの割合が減ることを確認、この可能性が高いことを確信している。
   あとは、この可能性を生化学的に詰める実験が行われ、1)リガンドと結合したTcRはコレステロールと結合できない、2)コレステロール結合部位が変異したTcRは細胞内でリン酸化を受けにくい、3)正常T細胞をコレステロール酸化酵素で処理しコレステロールの結合を抑えると、TcRはリン酸化されやすくなり、またシクロデキストリンでコレステロールを除去すると、T細胞の活性化が上昇する、4)コレステロール結合によるTcRリン酸化の低下は、コレステロール結合によりLcKリン酸化酵素がTcRに結合できなくなることによる、等の結果を示している。最後にこの結果に基づいて数理モデルを作成し、TcR、抗原(MHC)、そしてコレステロール結合の間の様々な状態から、T細胞反応を予測できる可能性を示している。
  話はこれだけだが、詳細な実験が行われており説得力が高い。私自身考えたことのなかった可能性だが、もしこれが正しいとすると、ガンの免疫療法、自己免疫病などの分子基盤を考えるとき、TMの変化についても考える必要があることを意味している。また、他のシグナル分子についても、同じようにTMの状態が興奮性に寄与していないかも興味がある。 
   もちろんTcR特異的な現象かもしれない。もともとTcR複合体は、抗原受容体と4種類のCD3分子が結合してできている複雑なものだ。おそらく、他の分子より微細なシグナルチューニングが必要だからだろうと思っていたが、TMへのコレステロール結合までこのチューニングに加わるとすると、T細胞操作による疾患治療は、様々な可能性を考えながら進歩させる必要があると感じた。

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