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6月12日:神経性食思不全の思考回路(Translational Psychiatry発行予定論文)

2016年6月12日
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   以前述べたが、京都大学に移ってから雇った最初の秘書が神経性食思不全だった。秘書をしてもらいながらなんとか立ち直ってもらいたいなどと、甘い考えで雇うことにしたが、励ましたり、暖かく接することで治るような簡単な病気ではなく、結局体重の低下が止まらず、仕事を続けることができなかった。その時から、この病気の患者さんの食事に対する思考回路には興味がある。
   今日紹介するパリ聖アン病院からの論文はこの病気の患者さんが痩せることについてどう考えるのかを調べた研究でTranslational Psychiatryに掲載予定だ。タイトルは「Higher reward value of starvation imagery in anorexia nervosa and association with Val66Met BDNF polymorphism(神経性食思不全症で見られる飢餓状態に高い価値を求める気持ちとBDNF Val66Met多型との連関)」だ。
  どのように体型に対する思考回路を調べるのかと最も興味のあるところだ。この研究では71人の神経性食思不全(AN)の患者さんに、BMI12-16の瘦せ型から26-36の肥満の女性の裸の写真を見せて、自分がその状態にあるとしたらどう思うかを4段階に評価させるとともに、皮膚の電導性を測定している。素人にも納得できる課題だ。結果だが、AN患者さんは正常人と比べると瘦せ型に対する評価が高く、肥満型に対する嫌悪感を示す。実際平均評価でいうと、瘦せ型に対する評価がANで2.7、肥満に対する評価が1.9と瘦せ型の方が評価が高いが、正常人では逆に1,6と2.6と逆転している。予想通り、太るより痩せる方に好感を持っている。また、同じ写真に対する反応を皮膚の電導性で調べると(いわゆる嘘発見器)、やはり反応が正常人の反対で、ANでは見せられた写真の体重に反比例して高い電導性を示すが、正常人は正比例している。また、ANの方では、電導性の絶対値が高い。
  この結果は、AN患者さんの客観的評価方の一つとして、皮膚電導性を使える可能性を示唆している。そこで最後に、ANと相関するとされてきたSNPの一つBDNF遺伝子の多型と皮膚電導性の相関を調べて、この多型は正常人での皮膚電導性反応と全く相関しないが、AN患者さんではMet型の場合電導性が明確に高いことを明らかにしている。
  少しわかりにくいかもしれないが、これらの結果から、瘦せ型に対する好感度を持つAN状態を背景に、この遺伝子多型が身体反応を高め、症状を促進する因子として働いているという結果だ。
  特に新しい方法を使っているわけではないが、地道に患者さんの評価法を開発しようとする意図がはっきり見えた論文で、ANを理解しようと苦労している様が伝わってくる。

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