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6月14日:多発性硬化症への自己幹細胞移植治療(6月9日The Lancetオンライン版掲載論文)

2016年6月14日
  多発性硬化症(MS)は、引き金になる原因は不明だが、自己反応性のリンパ球により神経軸索を囲む髄鞘が攻撃され、ミエリンが剥がれていく病気で、神経伝達の伝達障害に起因する様々な症状がでる。現在は免疫抑制剤、抗炎症剤などリンパ球を標的にした治療が行われ、また活発に新薬が開発されている疾患だが、完治の決め手は残念ながらない。このため、患者の免疫システム全体を移植によりリセットできないかという試みが、特に治療抵抗性で進行性のMSに対して行われてきた。
   今日紹介するカナダオタワ病院からの論文は自己幹細胞移植によりなんと7割の患者で病気の進行が止まったことについての報告でThe Lancetオンライン版に6月9日掲載された。タイトルは「Immunoablation and autologous haemopoietic stem cell transplantation for aggressive multiple scleraosis: a multicentre single-group phase 2 trial (進行性の多発性硬化症に対する免疫除去と自己幹細胞移植治療:他施設単一群第2相治験)」だ。
   実は同じような試みは繰り返し行われてきた。著者らはこれまでの方法の効果が一時的で終わったのは、病気の原因となっている免疫系を完全に叩けていないと考え、徹底的な免疫細胞除去プロトコルを採用している。すなわち、ブスルファンを6時間ごと16回、サイクロフォスファマイドを4日間、それに加えてウサギを免疫して作成した抗ヒト胸腺抗体を投与して免疫系を徹底的に叩いた後、前もって凍結していた患者さんの血液幹細胞を投与するプロトコルを採用している。
  ブスルファン、サイクロフォスファマイドは抗がん剤で当然強い副作用が出ることから、患者さんの選択は厳しい基準で行い、これまでの治療に抵抗し、万策尽きたケースを選んでいる。最終的に治療にこぎつけたのは24人で、そのうち21人が3年間の治験を終え、また13人はその後の経過をフォローしている。
  もちろん、幹細胞調整時や、徹底的な免疫抑制による強い副作用が出るものの、全員末梢血から調整した自己幹細胞移植により免疫系は回復している。
   この徹底した治療は、予想を上回る結果につながっている。実に70%の患者さんで3年間MSの症状が再発することなく経過している。また、MRI検査でもMSによる障害像が全く消失しており、ミエリンの修復が進んでいることがわかった。   一部の患者さんでは、運動失調、眼振の消失が見られ、16人の患者さんは職場や学校に復帰し、なんと5人は結婚に至ったと誇らしげに報告している。他にも様々な検査をもとに、この治療法は進行性のMS患者さんの最後の治療法になりうると結論している。
   7割の方が3年間全く再発なしに生活を送るというのは確かに画期的だ。最後に苦しい治療ではあっても治る方法があることを知れば、患者さんたちも安心して今の治療を続けられる。是非より大規模な治験が行われることを望む。もちろん治験としては単一群で問題があるとする向きもあると思うが、これまでのMS治療について積み上がった経験があれば、私はこの治験はずっと単一群でいいような気がする。

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