AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 6月19日:イスラム国活動をネットから分析する(6月17日号Science掲載論文)

6月19日:イスラム国活動をネットから分析する(6月17日号Science掲載論文)

2016年6月19日
   シリア・イラクでのイスラム国は往時の勢いにも陰りが見えてきたが、パリ、ブリュッセルと立て続けにテロ攻撃を繰り返し、存在感を示している。イスラム国の特徴の一つが、SNSや動画投稿サイトを戦闘員のリクルートやプロパガンダに最大限に利用していることで、2013年発足の組織の急速な成長の要因の一つとなっている。しかしSNSを多用することは活動や支持者の情報を公にすることで、SNS全体の中からイスラム国関連の情報の流れを抽出してイスラム国活動を分析できる可能性がある。
   この可能性に気づいてSNSの分析を行っているのは当局だけではない。驚くべきことにネットからイスラム国やテロ集団の活動を分析する論文は数多く発表されている。これによると、階層性がしっかりしたテロ組織や、逆に一匹狼の活動をネットから把握することは難しいという結論になっていた。
   今日紹介するマイアミ大学からの論文は、ネット本来の自由なつながりが維持されている間に、自然発生的に結合が急成長し、それが現実の活動へとエスカレートする過程が、イスラム国の行動を知る手がかりになる可能性を調べた研究で6月17日号のScienceに掲載された。タイトルは「New online ecology of adversaryial aggregates: ISIS and beyond (敵対的集団の新しいオンライン上の生態学:イスラム国、そしてその先に)」だ。
   この研究では2014年以降、ロシアの会社が提供しているVKontakteのコミュニケーション全記録にアクセスして、イスラム国を支持する書き込みと、それにつながる個人を追跡している。私たちになじみのフェースブックは、イスラム国支持の書き込みが即座に遮断されるため使っていない。逆に、ロシアのVKontakteでは運営者による遮断は行われないようだ。また、このサイトは戦闘員を多く供給するチェチェン出身の利用者が多く、イスラム国がプロパガンダに最も利用しているサイトらしい。
   この膨大な記録の中から、イスラム国支持の書き込みを様々な言語について検索し、書き込みを行ったユーザー同士のつながりを再構築して、個人の書き込みが増幅しあって大きな集団になり、実際の行動へ発展する過程を分析している。
   例えば2015年1月から8月までに、196の集団が存在し、その集団をフォローしている約10万人の個人を特定できる。この集団の数は刻々変化し、またフォロアーも刻々変化する。図に示されているが、半年ほど続く集団もあれば、1ヶ月も続かない集団もある。
  この変化は自然発生的で、決して階層的な組織構成をとるわけではない。しかし重要なのは、自然発生的変化が実際の出来事につながっていく点だ。この例として、2014年イスラム国がトルコ国境のクルド族の村Kobaneを急襲した事件を分析しているが、襲撃の半年前から急速にネット上の支持集団の数が増え、事件をピークに再び沈静化する様子が観察できる。
   さらに書き込みを分析すると、襲撃ルートなどの作戦の詳細まで記載されていることがわかり、秘密裏に階層的な組織により現実の襲撃が行われるのではなく、かなり自然発生的に戦闘員が組織化されるのがわかる。
   比較のために、ブラジルで2013年に自然発生した反政府デモについても分析すると、やはり半年前からネット上の集団が増加を始め、事件前に急速に増加するのが見て取れる。
   これらのデータに基づき、この論文ではネット上で支持集団が形成され、現実のデモや作戦へと昇華する数理モデルを作成し、これを防ぐための手立てまで示唆している。
    読んですぐは、ネット上のビッグデータの分析はすごいと感心してしまうが、よく考えると、この数理モデルが予測できるのは、バーチャルなネット上の活動が、多くの人間が参加する行動へと移行する過程で、おそらくパリのバタクラン劇場襲撃やブリュッセル空港爆破テロの分析には利用できないことに気づく。
   とすると、この数理モデルが一番役に立つのは、自然発生的な一般市民の抗議行動を抑えたいと思う当局ということになる。中国ではネットでの情報を当局が調節して、自然発生的デモの勃発をコントロールしていると聞くが、同じような分析とモデリングが行われているのではと懸念する。そして、我が国を始め民主主義国ですら、為政者はこのような技術を使いたいという誘惑を感じるはずだ。
  イスラム国と聞くとテロ防止の決め手と納得してしまうが、ネットは知らず知らずのうちに、私たちをビッグブラザーによる支配へ導いているのかもしれない。考えさせる論文だった。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*