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6月24日:触覚障害と自閉症(心と体を結ぶ糸が切れたら):MECP2重複症勉強会に向けて(7月14日号Cell掲載論文)

2016年6月24日
    昨日、医学において「心」と「体」を切り離すことが本当は難しいこと、そして逆に「心」を体から切り離して考える人工知能研究の問題を指摘した(http://aasj.jp/news/watch/5418)。参照した論文が他愛ない論文で、大上段の議論のためには少し物足りなかったと思うが、全ては今日紹介するハーバード大学からの画期的な論文を紹介するための伏線だったと理解してほしい。
   さて、明日(6月25日午後2時)私たちのAASJチャンネルで、MECP2重複症のお子さんを持つお母さんとこの病気の勉強会を行い、ニコニコ動画で放送する予定だ(http://live.nicovideo.jp/watch/lv265257395)。病気については、2時からの放送を見てほしいと思うが、この番組について今日宣伝記事を書くため、MECP2についての最新論文を探していたところ、この画期的な論文に行き当たった。論文のタイトルは「Perpheral mechanosensory neuron dysfunction underlies tactile and behavioral deficits in mouse models of ASDs(末梢の機械刺激ニューロンの異常が触覚異常とともに行動異常の背景にある)」だ。
   MECP2はメチル化されたDNAに結合するタンパクで、これが欠損するとレット症候群、この遺伝子が重複するとMECP2重複症になる。それぞれの症状は異なるが、ともに自閉症様の社会性発達異常を伴う。ただ、遺伝子についてわかってきても、なぜこの様な症状が出るのか明瞭な説明はまだできていない。
   自閉症スペクトラムの研究は専ら脳の研究に焦点が当てられている。しかし、MECP2機能が欠損するレット症候群では触覚過敏症が見られることが知られており、また多くの自閉症スペクトラムでも触覚異常が報告されている。この症状をヒントに、このグループは体の感覚を伝える体知覚神経異常が自閉症様症状の原因になっているのではと着想した。すなわち、中枢神経ではなく、体と脳を結んでいる体知覚神経の異常が自閉症を起こしているのではと考えた。この仮説を証明するため、マウスの体知覚神経だけでMECP2遺伝子を欠損させ、社会行動異常との関わりを調べたのがこの研究だ。
   断っておくが、これは全てマウスモデルで行われた研究で、ヒトにどれだけ当てはまるかは不明だ。ただ、MECP2欠損や重複に関しては、マウスやサルモデルとヒトの病気はよく相関していることは述べておく。
   さて、あらゆる詳細を省いて結論だけを述べると、
1) 体知覚神経だけでMECP2遺伝子を欠損させると、触覚過敏や新しい物体を触って認識する機能の低下などの体知覚異常がおこるが、これに加えて社会行動異常も起こる、
2) 成熟してから同じ様に体知覚神経のMECP2遺伝子を欠損させると、触覚異常は起こるが、社会行動異常は起こらない。
3) MECP2が完全に欠損したレット症候群モデルマウスで、MECP2分子を体知覚神経だけで発現させると、触覚異常とともに社会行動異常は正常化する。しかし、記憶や運動障害は治らない。
4) MECP2欠損は、GABA受容体の発現低下を介して異常の症状を誘導する。
になる。
  これらの結果は、MECP2欠損による自閉症様症状は、体と脳をつなぐ体知覚神経の異常が主因であることを明確に示した。もちろん、体知覚が障害されると脳発達が遅れ、その結果社会行動異常が起こるが、これは体知覚を刺激することで治せる可能性がある。重要な貢献だと思う。    「この様に、心の発達に体からの刺激は必須だ」とカミさんに熱っぽく語ったら、「体知覚刺激はオキシトシン刺激かも」と答えが返ってきた。マウスモデルとはいえ、今後様々なことが明らかになる予感がする。

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