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6月30日:サリドマイド系薬剤の新しい作用(Nature Medicineオンライン版掲載論文)

2016年6月30日
   サリドマイド系の薬剤はその催奇形性作用で使用が中止されたが、その後骨髄腫や、骨髄異形成症候群のうち5番染色体の一部が欠損している患者さんに治療効果があることが明らかになり、より催奇形性の少ないレナリドマイドは、これらの病気の最も重要な治療薬になっている。この薬剤の抗腫瘍作用のメカニズムについては最近研究が進み、タンパク分解酵素(ユビキチンリガーゼ複合体CRL4)をcereblon(CRBN)分子を介して細胞増殖に必須のIKZF転写因子に連れてきて分解することが明らかになっている(http://aasj.jp/news/watch/827)。これ以降、この薬剤は標的分子を分解できる新しい効果を持つ薬剤として研究が加速している。
   今日紹介するミュンヘン工科大学からの論文は、この薬剤がタンパク分解とは異なるメカニズムを介しても効果を発揮していることを示す論文でNature Medicineオンライン版に掲載された。タイトルは「Immunomodulatory drugs disrupt the cereblon-CD147-MCT1 axis to exert antitumor activity and teratogenicity (免疫修飾薬剤はcereblon(CRBN)-CD147-MCT1結合を切断して抗腫瘍作用と催奇性作用を発揮する)」だ。
様々な実験が行われておりわかりにくいと思うので、結論だけを述べよう。この薬剤が結合するCRBNはCRL4をタンパク質にリクルートするだけでなく、CD147やMCT1に関しては、出来たばかりのタンパク質に結合してタンパク質の正常な形を保障し、また正常な糖修飾を進めるシャペロンとして働いている。すなわちCD147,MCT1が合成され、細胞膜へ輸送されるためには必須の分子として働いている。ここにCRBNに結合するサリドマイド系の薬剤が介入してくると、CRBNのシャペロンとしての機能が阻害され、その結果、裸になったCD147やMCT1の安定性が損なわれ、これらの分子の機能が失われるという結果だ。
  では、この機構が抗がん作用や催奇性作用にも働いているのか?
   これを理解するためにはCD147,MCT1の機能を知る必要があるが、CD147はMCT1と結合して細胞膜で発現し、骨髄腫や骨髄異形成症候群で見られる芽球細胞で発現が上昇している。この複合体は、糖分解などの細胞代謝に関わるトランスポーターとしての作用のみならず、血管増殖因子やメタロプロテアーゼなどの発現を誘導して、ガンの増殖を助けていることが知られている。
   そこで、CD147・MCT1分子の発現を直接抑制して、これらの分子が抗がん作用に関わるかを調べ、骨髄腫、骨髄異形成症候群ともにこの分子が抑制されるとガンの増殖が低下することを確認している。
   興味を引くのは、CD147/MCT1が5q欠損の骨髄異形成症候群だけで発現していることで、なぜレナリドマイドが5q欠損のグループに高い効果を持つのかが初めて説明できている。
   これまでサリドマイドの催奇形性はFGFを分解することによることが示されていたが、このグループはCD147をノックダウンするだけで、fgf8の発現が低下することを示し、CRL4タンパク分解系のリクルート以外に、この分子が重要な役割を演じている可能性を示唆している。
   以上サリドマイド系薬剤の研究に新しい可能性を示した重要な研究だと思う。何よりも新しいメカニズムがわかることで、ガンのモニタリングも可能になる。とりあえずは、患者さんのがん細胞のCD147発現を調べ、薬剤の効果を予測することは明日からでも可能だろう。ぜひ試していってほしい。

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