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7月9日:膵臓癌に対するFAK阻害剤の効果(7月4日Nature Medicineオンライン版掲載論文)

2016年7月9日
   ガンの治療成績は着実に進歩しているが、膵臓癌だけは何十年もほとんど治療成績の変化が見られず、医学研究をあざ笑っている。しかし論文を読んでいると、医学界も膵臓癌を重要な標的として研究を集中させているように思える。まだまだ前臨床段階なため、治療成績改善につながるところまでには至っていないが、将来は期待できそうだ。
   今日紹介するワシントン大学からの論文はマウス膵臓癌モデルを使った研究ではあるが、現在ある治療法の組み合わせを調べた研究で、比較的臨床に近いところにある研究だと思う。タイトルは「Targeting focal adhesion kinase renders pancreatic cancer responsive to checkpoint immuneotherapy(接着斑キナーゼは膵臓癌のチェックポイント免疫療法の効果をあげる)」だ。
   膵臓癌の特徴の一つはほとんどがras遺伝子の変異をドライバーとしていることで、多様性の面からみれば単純なガンだ。しかしrasに対する標的薬がないため、標的治療の対象にはなって来なかった。6月30日号のNatureには肺がんを対象としてras変異を、MEK阻害剤とFGF阻害剤の組み合わせで抑えられる可能性が報告されており(Manchado et al, Nature 534, 647, 2016)、ひょっとしたら膵臓癌や肺がんの治療を変えるかもしれない。
  もう一つの特徴は、ガンの周りの間質反応が強いことだ。ただ、この反応が膵臓癌を助けているのか、あるいは膵臓癌を抑えているのか、相反する意見がある。ただはっきりしているのは、このような間質反応が強いガンほど予後が悪い。
   この研究の発端は、間質反応の強い膵臓癌で細胞がマトリックスと相互作用するときに活性化される接着斑キナーゼ(FAK)が強く発現しているという発見だ。幸い、FAKに対しては阻害剤が存在し、さらに最近の第1相治験でも膵臓癌に対して効果があることが明らかになっている。そこで、マウス膵臓癌モデルを用いて、他の薬剤とFAK阻害剤の組み合わせを試したのがこの研究だ。
   様々な検討を行っている。FAK単独でも、あるいは膵臓癌に最も使われるゲムシタビンと組み合わせても、抗腫瘍効果を高める。ただ最終的にこの研究が標的にしているのは、膵臓癌で間質反応が誘導されコラーゲンの沈着が増えると、膵臓癌のFAKが活性化され、その結果分泌される主にCXCL12などのケモカインを介して、ガンの周りの炎症を誘導するが、この炎症ではガンに対する免疫を抑える細胞の浸潤が強く、ガンに対する免疫反応が起こらないという経路だ。要するに、FAKを抑制すれば、ガンに対する免疫を高めることが期待できる。
   結果は期待通りで、FAK抑制剤は間質反応を低下させ、ガンの周りにキラー細胞の浸潤を助ける。また、人工的な抗原を発現したガンを用いた実験で、ガンに対する免疫が高まっていることも観察している。
  最後に、低濃度のゲムシタビン+抗PD1抗体にFAK阻害剤を加える組み合わせでガンが強く抑制できること、またゲムシタビンを使わず、FAK阻害剤と抗PD1抗体+抗CTLA4抗体という最強免疫組み合わせでも、効果が上昇することを示している。ただ、どちらの治療も完全に治る割合はまだ低い。これは免疫療法の宿命で、ガン抗原ワクチンなどによる免疫を成立させることが今後の課題になる。
  これは動物を用いた前臨床研究でヒトに応用するにはまだ時間がかかるだろう。しかしやる気になれば明日からでも治験を始められる治療の組み合わせだ。ただ、これほど高価な、しかも異なる会社から提供されている薬剤を組み合わせる治験をどの体制でやればいいのか、難しい問題が残ってしまった。国の支援が必要な分野だと思う。

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