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7月16日 Cloche(釣鐘)変異(7月14日号Nature掲載論文)

2016年7月16日
    血液は血管と同じ前駆細胞から発生してくる。このため血液の発生の研究は、血管発生とオーバーラップする。私たちも、熊本大学から京都大学に移った頃から血管が研究対象に入ってきた。幸いSmavkalov君,片岡君、田中君たちのおかげで、自分では納得できる独自の発生のシナリオが描けて現役を終えることができたが、唯一心残りは私たちのシナリオと、Clocheと呼ばれるゼブラフィッシュの突然変異の関係を説明できなかったことだ。
   ゼブラフィッシュのCloche突然変異は、血液と血管ともに完全に欠損していることから、中胚葉が血管血液系列へ分化する時のスウィッチになると考えられ、この分野の研究者はその遺伝子クローニングを首を長くして待っていた。事実、京都で血液と血管共通の前駆細胞の研究を始めた時、cloche変異は常に頭の中心にあった。それから私が現役を辞めるまでの20年以上、一度中国のグループがクローニングに成功したという勇み足の論文を発表した以外、この遺伝子はずっと幻のまま現在に至っていた。
   今日紹介するドイツ バート・ナウハイム・マックスプランク心肺研究所の論文は、Cloche突然変異の本体を明らかにした、この分野の画期的な研究で7月14日号のNatureに掲載された。タイトルは「Cloche is a bHLH-Pas transcription factor that drives hemato-vascular specification(Clocheは血液血管への分化を誘導するbHLH-Pas転写因子)」だ。
   この研究を行ったStanierはゼブラフィッシュを用いた血管研究を常にリードし続けている研究者で、最近このマックスプランク研究所に移ってきた。この研究所は、亡くなったWerner Risauのグループが多くの業績をあげたこの分野の重要な研究所だったが、最近は低調で、この再生プログラムの目玉としてStanierをリクルートしているが、その成果が早くも出たというところだろう。
   研究のほとんどは、Cloche遺伝子特定の苦労話だ。突然変異の誘導、掛け合わせによる遺伝子マッピング、遺伝子発現データの組み合わせなどを経て、幾つかの候補を特定し、最終的にCloche突然変異体を正常化できるかを指標にして、bHLH-pas(npas4)転写因子に行き着いている。もともとテロメア近くにある遺伝子は特定が難しいが、大変な努力を傾注していることがよくわかる。Congratulation.
  論文を読んで、今回はもう間違いがないことを確信する。
機能については、血液血管発生を決定するEtv2,Tal1より早く発現すること、また強制発現させるとEtv2の発現が上昇することなどを示して、血液血管前駆細胞分化のスウィッチであることを示している。
  私たちはマウスの系でEtv2が中心として働くシナリオを提案したが、Etv2をClocheが誘導すると考えれば話はつながる。ただ、マウスでnpas4をノックアウトしても発生は正常に進み、現在この分子は脳記憶との関連で盛んに研究されている。Stanierは同じファミリー分子ARHが補償しているのではないかと示唆しているが、よくわからない。ゼブラフィッシュとマウスの中胚葉分化がもともと違っているのか、あるいはマウスではスウィッチが複雑化しているのか、今後研究が必要だろう。これも時間の問題だろう。    一つの時代が終わった気がする。

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