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7月17日:マイノリティーへの眼差し:区別と融合の両立(7月14日The New England Journal of Medicine 、7月9日The Lancet、掲載論文)

2016年7月17日
   アメリカのオバマ大統領は、欧米各国が進めてきたマイノリティーに対する差別との戦いの象徴だったと思っている。同じように、英国のロンドン市長パキスタン系移民2世、またドイツの緑の党(同盟90/緑の党)の党首にトルコ系移民2世が選ばれているのを見ると、この傾向が着実に進んできたように思える。とはいえ、差別克服には自然感情を超える理性が必要だ。そのため、トランプ現象に見られるように、この努力はあっという間にポピュリズムに飲み込まれる。こんな時こそ、社会の理想とは何かを常に指し示そうとする努力は重要だ。
   その意味で、The New England Journal of MedicineとThe Lancetに掲載された、それぞれボストン小児病院のShuster氏らの意見と、メルボルン大学を中心とする国際研究チームの論文は、考えさせることの多い論文だった。   Shuster氏らの論文のタイトルは「Beyond bathrooms –Meeting the health needs of transgender people (トイレ問題を超えて〜トランスジェンダーの人々の健康ニーズに答えるために)」だ。
  昨年の5月、アメリカ最高裁で同性婚を認める画期的判決が出された。その時の判決文の格調の高さはアメリカが理想を求める国であることを明瞭に示している。(「No union is more profound than marriage, for it embodies the highest ideals of love, fidelity, devotion, sacrifice and family (結婚より深いつながりはない。なぜなら結婚には愛、信頼、献身、犠牲、そして家族のもっとも高い理想が実現している)(拙訳)」)。
  とはいえ、トランスジェンダーが社会に融合するには、トランスジェンダー以外の人間が理性で差別を克服することが必要になる。アメリカでは、トランスジェンダーの希望する側のトイレを使用させていいのか議論が進んでいる。事実、トイレの利用がトランスジェンダーが暴行を受ける最も多い原因になっている。さらに、学校でのトランスジェンダーの問題はもっと深刻で、イジメを避けるため我慢して尿道炎になったり、水を飲むのを我慢して脱水になったりする子どもがいるようだ。アメリカでは国を挙げてこの問題に取り組み、12の州政府が、この対策が適切でないと学校長を相手に訴訟を起こしているらしい。また、トップ500社のうちトランスジェンダーを認める企業が、2002年には15社しかなかったのが、現在では375社に達している。
   トランプ大統領が選ばれれば、これらの努力は水泡に帰すのではと懸念するが、それでも官民あげて理性でマイノリティーを受け入れるアメリカの努力は我が国のずっと先を言っていることを知る必要がある。
  この論文は、医師や医学者に対し、トランスジェンダーに対する準備を呼びかけるとともに、心や体についての研究を加速する必要を訴えている。実際、アメリカでさえトランスジェンダーの19%が診療を拒否され、28%がハラスメントを受けていると感じている。したがって、医療従事者がトランスジェンダーを知り、病院を変えることが必要になる。例えば、患者さんを呼ぶときMr/Ms、あるいはHe/Sheを使い分けることの重要性から、性転換手術後子宮頸部が残存することも考慮して、ガン検診を行うことまで、患者さんの側に立つ医療を徹底するため、理性に基づく徹底的な自己努力が必要だと説いている。そして、トランスジェンダーが、いつか右利き左利きの区別と同じように扱われる社会を目指すべきだと理想を指し示している。
   次の大統領選挙でもアメリカがこの理想を守り通すことを期待している。
   とはいえ、マイノリティーと社会を完全に融合する政策だけでは、マイノリティーの問題の最終解決にならない可能性を議論したのが次に紹介するThe Lancet論文で、タイトルは「Indigenous and tribal peoples’health: a population study(原住民、部族民の健康)」だ。
   2015年国連が理想として掲げた17の解決すべきゴールには、貧困、栄養、健康、教育、そして国内での格差問題が含まれる。この理想がどのように解決されているのか調べる一つの指標に、各国が抱える先住民、部族民の置かれた状況がある。先住民は例えばアメリカ、カナダのような高所得国のイヌイットから、パキスタンのような低所得国の遊牧民まで、ほとんどの国が抱える問題だ。もちろんわが国でもアイヌは私たちの子供の頃は重要な問題になっていた。
   この研究では、国際チームが組まれて、23カ国、28の先住民について、平均寿命、幼児死亡率、新生児体重などの健康指標を調べ膨大なデータを示している。長くなるので詳細は省き結論を述べると、「予想通り、先住民は所得を問わずほとんどの国に存在し、高所得国でさえもその健康状態は一般の国民と比べ劣っている。ただ、状況は国によってバラバラで、各国独自の取り組みが必要だ」になる。
   膨大なデータの中で私が個人的に気になったのが、北欧各国に住む原住民のケースだ。これらの国では、当然先住民を差別することがないよう、完全に融合政策が徹底している。例えばスウェーデンのサーミ族が住む地域でさえ、その割合は18%程度で、住所も含めて完全融合が進んでいることがわかる。国勢調査でもサーミ族がわかるような調査は行わない。しかし今回サーミ族を区別して調べた調査で、例えば新生児死亡率は、明らかに一般国民より悪いことが明らかになった。以上のことから、差別を撤廃して完全に融合することだけがゴールではなく、マイノリティー自身の協力のもと、特別の政策をとることの重要性も示唆している。
   このように、マイノリティー問題は、マイノリティーが見えなくなればいい話ではない。特に医療はこの問題を避けることはできない。これらの論文を読むと、医師や医学研究者は、高い知識を持つだけでなく、高い理想を掲げるべき仕事であることを強調しており、両方の雑誌の良心が伝わって来る。トランプ旋風の最中にこそ紹介したいと思った。

  1. 橋爪良信 より:

    マイノリティー問題、移民問題から多文化共生への試みが誤った方向に作用し、英国のEU離脱が決定しました。
    いま、EUの移民受け入れ国がポピュリズム・極右に傾斜してしまっています。我が国が、お手本とできる政策が打ち出せるかに注目していましたが、残念です。

    1. nishikawa より:

      医療が完全無料の英国などでは、気持ちが全くわからないわけではありません。

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