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7月19日:インシュリン抵抗性を誘導する腸内細菌(Natureオンライン版掲載論文)

2016年7月19日
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    腸内細菌叢が私たちの代謝に大きな影響を及ぼすことがわかってきて、この分野が加速している。しかし3年ぐらい前は、細菌叢の変化により分泌される短鎖脂肪酸など細菌由来分子の分泌量の変化が起こり、様々な経路を介して代謝に影響するといった現象論的研究が中心だった。しかし、細菌叢の全ゲノムを解読し、細菌叢自体の代謝を推察することが可能になり、研究が現象論からより因果論的研究へ深化してきた。
   今日紹介するデンマークからの論文は代謝物を網羅的に検出するメタボロームと、細菌叢の解析を組み合わせて、インシュリン抵抗性を示す277人のメタボ患者を分析して、インシュリン抵抗性の原因になる細菌を特定した論文でNature オンライン版に掲載されている。タイトルは「Human gut microbes impact host serum metabolome and insulin sensitivity (人間の腸内細菌叢は結成のメタボロームを変化させ、インシュリン抵抗性に影響する)」だ。
   この研究では最初からインシュリン抵抗性の一つの原因が腸内細菌叢由来の分子によると決めて研究を進めている。
   これまでの研究でインシュリン抵抗性の患者の血清中のメタボロームの変化で目立つのが脂肪族の側鎖を持つアミノ酸(BCAA)の上昇であることが分かっている。この研究ではこの点に注目し、腸内細菌叢の変化と比較することでBCAAの上昇に関わる菌の特定をまず試みている。おそらく簡単ではなかったと思うが、厖大なデータの比較から、これまでリュウマチとの関連が指摘されていたPrevotella copriとBacteroides vulgatusが、メタボ患者で変化するBCAA生産に関わる酵素システムを持っている細菌種であることを特定している。特にP copriの変化が明らかなので、この後はこの菌に絞って、血中BCAAを上昇させインシュリン抵抗性を誘導することをマウスを用いて確認している。
   著者らも強調するように、P copriから分泌されるBCAAがインシュリン抵抗性が獲得されるメカニズムは明確でない。また、BCAAを腸内で代謝してしまう細菌の変化も、BCAA産生菌とともに重要だ。しかし、P copriとBCAAがこれらの回路の中心にあることを発見したのは、腸内細菌への介入を通してメタボを治すための重要な貢献だと思う。
  これを実現するのはprebioかprobioか、産業界での競争はこれからだろう。

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