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8月19日:刺激による脳皮質神経のグループ化(8月12日号サイエンス掲載論文)

2016年8月19日
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   脳回路の面白いのは、ただ電線が張り巡らされるのではなく、刺激に応じてそれが再構成される点で、AIの研究にとってもこれをコンピュータ上で再現することは重要な課題だ。この再構成はシナプス結合の強さの調節で行われるようだが、感覚から反応まで外部刺激により階層化された機能的ネットワークだけでなく、同じ階層に属する神経細胞同士も刺激によってグループ化されると考えられている。
   今日紹介するコロンビア大学からの論文は、同じ階層にある皮質ニューロンを刺激によってグループ化できるか確かめた論文で8月12日号のScienceに掲載された。タイトルは「Imprinting and recalling cortical ensembles (皮質神経グループの刷り込みと再呼び出し)」だ。
   この研究で問われたのは、他の階層の神経刺激により組織化するのではなく、同じ階層の神経を刺激して、強いシナプス結合で結ばれた神経細胞グループを形成させられるかという問題だ。一見やさしそうな課題に思えるが、神経が階層的に組織化されているため、これと無関係にグループ化するのはそう簡単ではない。わかりやすく言えば、ある地域にたまたま住んでいるだけという近所同士が固いつながりを持てるかと同じようなものだ。
   この課題を達成するため、この研究では光遺伝学を駆使し、神経の刺激と、神経の興奮の記録全てを光で行う系を用いている。実験ではマウスの頭を固定しながらトレッドミルで歩かせて刺激を与え続ける。これ自体が皮質神経をグループ化する刺激になるが、これに加えて特定の領域の皮質神経を光刺激で興奮させる。
   もし刺激により神経細胞のグループ化が起こるなら、階層とは無関係に光刺激を繰り返すと、他の階層により制限されていない神経同士のシナプス結合が高まり、グループ化できると期待できる。結果は期待通りで、だいたいその領域の20%程度の神経細胞が同じ光刺激で同調して興奮するようになる。この時の神経細胞はその領域全体に散らばっており、光刺激で興奮した細胞がランダムにグループ化されたことを示している。
   次に、このグループの一つの細胞だけを刺激してこのグループ全体が反応するかどうか調べると、予想通りで、グループ全体に反応が及ぶ。また、このグループは次の日も安定に維持される。
   結果は以上で、一見当たり前のことが確認されただけのように思えるが、今後階層とは無関係にグループ化したこと自体の影響を調べたりできるようになると、結構面白い実験系に発展するように思う。
   「脳の自由意志の形成」といったタイトルの論文が出てくるのも時間の問題だ。

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