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完全なリプログラミング 10月3日Nature (オリジナル)

2013年10月5日

山中さんのノーベル賞受賞が決まってから既に1年が経つ。山中さんがWislerでこの仕事を初めて発表した時私が座長をしていた関係で、ノーベル賞受賞までのいきさつの全てを観察する事が出来た。山中さんが日本でも注目されるようになってから個人的に不快な思いをしたのは、山中さんの仕事を貶める意見を述べる方が私の知り合いにも多くいた事だ。その方々は、iPSは身体の中にほんの少し混じっているだけの未熟細胞を拾っているだけだと論を展開していた。勿論科学ではあらゆる可能性を考えて仕事をする。当然反論もあるのが普通だ。ただ、私が不快に思ったのは、この反論を展開していた人達が、この問題に真正面から取り組んでいたR. JaenischとJacob Hannaが2009年に発表した論文を読んでいなかった事だ。この論文では、全ての体細胞がリプログラム可能である事を最初に証明した画期的な論文だった。リプログラム過程では、必要な様々なプロセスがランダムに進む。このコントロールできないランダムさのため、リプログラムの確率が低くなってしまう。ただ、細胞が生きて分裂さえ繰り返しておれば、どの細胞でもいつかリプログラムできると言う論文だった。Hannaはその後イスラエルに帰ってこの研究を続け、ついにリプログラムを完全にコントロールする事に成功した。即ち、ほぼ100%の細胞が、ほぼ1週間で必ずリプログラムされると言う条件を見つけ出した。この論文は10月3日号のNatureに報告された。タイトルは「Deterministic direct reprogramming of somatic cells to pluripotency (決定論的、体細胞から全能性細胞への直接リプログラミング)」と、気持ちが伝わってくる。発見は極めてシンプルで、Mbdと名付けられたエピジェネティック過程の調節分子の発現を止める操作を、これまでの山中iPS作成方法に加えるだけだ。すると、ヒトでもマウスでも、どんな細胞でも、ほぼ100%iPS化する。本当に多能性か?生殖細胞系列に分化し子孫が出来るか?遺伝子発現は?単一細胞レベルでもそうか?など、確認しなければならない事は多いが、全てしっかり実験的に示されている。そして、実際にリプログラム過程で何が起こっているのかの分子的解析も示されている。全て納得得できる結果だ。すばらしい仕事は、紹介のために詳しい内容をくどくど書く必要はない。ついに、誰でも同じ品質のiPSを作るための技術が開発された。
    日本のメディアはこの画期的な論文を紹介するのだろうか。iPS分野の仕事としては、山中さんの論文以来最も重要な論文になるだろう。一つの時代が完成したことをはっきり理解した。


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