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8月30日:新しいRAS阻害戦略(8月24日号Nature掲載論文)

2016年8月30日
    このホームページで何度も強調してきたが、RAS突然変異を阻害できると30%近くのガンの進行を一時的にでも止めることができる。ただ、RASは直接的阻害剤を設計しにくい構造になっていて、利用できる阻害剤は現在もできていない。代わりに、RASの下流で活性化する分子を標的にした阻害剤が開発されてきた。この中で最も成功したのが京都府立医大の酒井さんとJT医薬総合研究所が開発し、GSKに導出したトラメチニブだろう。しかし、トラメチニブ阻害はフィードバックを介して上流でのRAS-RAFの活性を高め、さらにKSRと呼ばれる分子を介するバイパスを活性化してシグナルを伝えるため、RAFの突然変異を持つメラノーマには効いても、RASの突然変異を持つガンには効果がなかった。
   今日紹介するマウントサイナイ医科大学からの論文は、このバイパスでRAFとMEKの活性を制御するKSRを標的とした科学化合物の開発についての話で8月24日号のNatureに掲載された。タイトルは「Small molecule stabilization of the KSR inactive state antagonizes oncogenic Ras signaling(KSRの不活性状態を維持する化合物はRASの発がん性を抑制する)」だ。
   この研究ではまずRAS活性を抑制する分子を探索したショウジョウバエと線虫の遺伝子探索の結果を再検討し、KSR分子のATP結合部分の突然変異がRAS変異を抑制できることを見出し、この部位を阻害する化合物を176種類のキナーゼ阻害剤の中から選び出し、分子の構造解析をもとにより特異的な阻害剤APS-2-79を開発している。
   後は、KSRと RAF,MEK分子の構造解析と阻害実験を繰り返し、RASからMEKを介するシグナルを阻害することを確認している。
   もちろんKSRを介さないRASシグナル経路が存在するため、この薬剤単独でのRAS阻害活性は低く、細胞増殖抑制効果はないが、RAFに変異がない系でトラメチニブなどのMEK阻害剤と共同すると強い細胞抑制効果を示すことがわかった。
以前紹介したように(http://aasj.jp/news/watch/5606)私が最近目にしただけでもRigosetibやPonatinibのようにトラメチニブと協調する薬剤が明らかになってきており、この論文でまた一つ新しい化合物の可能性が見えてきた。我が国発の薬剤が早くRAS変異制御に使われることを本当に期待している。

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